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厚生省未来計画課

今日は、新しい彼と初デートの日!

先ずは、上の子アイルをいつものように学校へ送り出したあと、
保育園へ下の子マリオンを預けに行く。

「おはようございます」
「おはようございます、メイルさん」

にこやかに、保育士さんが出迎えてくれる。
特に私は、二人の子供をすでに持っているので
本当に、保育士さんの多くがとても愛想が良い。

「お待ちしてましたよ〜。ご予約通り今日ですね〜」
「はいー。デートですので宜しくお願いします」
下の子は、よく懐いているサキナ先生の腕の中へ駆け込んでゆく。ここの遊具も、お気に入りが多いし、お友達ともみんな楽しくいられる。

熱を出しているのに無理に連れられてくる子供もいなければ、仕事疲れで虐待されて育つ子供もいないので、 園庭で遊びだしている子供たちの顔は、本当に晴れ晴れしている安心できる保育園だ。

子供の体調等は既に、健康基礎情報として保育園にデータは自動で送られているので申し渡しもない。保育中、何かあれば、メッセージがとんできて連絡が取れるんだし。

「一応戻りの時間は…最初だし夕方までなんですけど…」
「ええ、ごゆっくり。遅くなるほどの素敵なお相手だといいですね♫」ウインクを返してきてくれる。

一度帰宅して、ゆっくりお風呂に浸かり、好きな服を選ぶ。自宅にいいのが無ければ、ちょっとショッピングしてもいいくらい、待ち合わせには余裕があるけど。

先日、下の子が昼寝をしているときに、モバイルカタログで気に入ったのがあった。
注文したのが昨日届いたから、それを試着してみることにする。支払いはもちろん、全て厚生省付になっているので無料だ。

うーん、どうかな?
白をベースにして、花がもとのモチーフのイメージアレジメントデザイン。

ウエストのくびれも綺麗だし、デコルテも、スカートから伸びる脚のラインもなかなかだし、これでいいかも。色っぽいかな、うん。

化粧品も今シーズン流行りのレトロモーヴな
秋イメージ。紫と金茶系ね。香水は…と…。

「どう?エルフィー」
スマホの恋愛コンパニオンに尋ねる。
「今回のお相手は、お嬢様系ママがお好みの
ようですから、清楚フローラルなアロマが
オススメなんですけど、如何でしょうか?」

…清楚系、お嬢様好みって…まだ棲息してたのねー。希少価値かも!

「うん、わかった。ならこれでいいかな?」
「テレンスのフィロソフィーですね。もうちょっと甘いのもオススメですが、それもいいでしょう」

アクセは、パール系がいいかな。
マニキュアもあまりデコってないのがいいのかしら。ナチュラルプラストロピカルテイスト。

靴もあまり肉食系では駄目よね。ピンヒール
は止めておこう。上品ななめし革素材。

「今日の勝負服なんだけど、どう?」

女友達たちに、画像を送って相談して評価をもらう。
相変わらずみんな色々なアイデアと、囃し立て
で今日のデート気分を盛り上げてくれる。

「なになにー、お嬢様系好みですってー?」
「それって、歳下?歳上?」
「わっ、気になるねー。あとで経過報告も
楽しみ〜」

それぞれ彼女たちの以前のデートのときの
コーディネートや
そのデートのお相手などの話でかなり脱線もしたけど。

無事OKが出たので、準備は整った。

「エルフィー、今日の基礎体温情報は平気よね?」
「もちろん、上々ですよ」
玄関の鏡に姿を映しながら最後の確認をして、
私は家を出た。

「ねえ、エルフィー、もう一回今日のデートの相手に関して、わかることを教えて?」

まず、相手の映像が写り込まれる。
うん、なかなかいい感じ。

もちろん、多少補正はかかっているかもしれないけど。現在の健康管理プロジェクトが出来てから、太りすぎとか栄養失調だったりする人は
存在しないし、男性にも恋愛コンシェルジェが専属しているので皆おしゃれだし、会話力も充分で恋愛で問題にもなる相手はほぼ当たらない。

国により週で決められたジムトレーニング時間が義務付けられているからみんな、
男性も女性も健康でセクシーな体型は維持できてる。

「はい、お仕事は海洋資源開発プロジェクトの
研究で、海洋牧場プラント計画に携わっておられます。」

世界的人口問題で食糧対策は大事だものねー。
海洋牧場? 鯨とか鮪とか…?

「動物好きなひとかなあ。猫派?犬派?」

ひと昔前のように、仕事も家事もこなしを求められる重圧ストレスもない溌剌とした男性。

もとより、結婚システムが半壊した今では、
結婚したら一生、その相手だけに縛られなくてはならないとか、自分だけで食べさせていかなくてはならないことから解放された。

より多くの女性と何度でも恋愛することが出来るようになって、一時弱まっていた男性力が増大されて取り戻されていった。

精子減少や、不妊の増加に対してこれほど
効果のあった政策はなかった。

未来への社会貢献ができる仕事力と、遺伝子的
有能性を持っていれば、恋愛が破綻したあとも
政府によって子供育成資金が、税金で全てまかなわれるので無罪放免に近い。

女性にとっても、離婚したいが子供に生活不安はさせられないという枷が取り払われた。
子供を育てるほど育児支援金も年金も加算されて生活の心配は無い。

子供のために仕方なく維持する夫婦は、存在しなくなったのである。

さあ、次の相手と恋愛してください。

仕事も、子供もたくさん持てる男性こそ、
現在のモテる人気を占め、より多くの恋愛が

出来るという報酬によって男性の
仕事へのポテンシャルも上がるようになった。

そして、次の女性とも子供という国家財産を増やしてくれればそれが一番効果的。

そして女性も、子育てに入りたい時期がくれば、最優先で優秀な子供をしっかり育てるためのサポートが用意される。

ひと昔前の、仕事も家庭もフルでできる女性なんて、ほとんどスーパーマンに等しい割合でしか存続出来ないことが立証された。
その後、少子化対策は有能な女性であるほど、有能な子供という国家財産を残せることが判明してからは、子育て重視へ舵をきった。

著しかった少子化対策は、過去とは真逆の対策を取る方向へと向かったのだった。

実はエルフィーこそが、政府直轄の日本人存続計画一環AIでもある。
デートのオススメ相手も遺伝子的な相性からも
選ばれて男女に誘導が行われる。

保育士の中には、不妊だけど子供は欲しい
子供好きな人たちが多く就職している。

人口子宮やクローン培養より
もっとも安全な救済策は、多産できる女性から許可を得て、代行出産を依頼できるようになったのだ。

彼女のように、既に二人健康な子供を産んでいてまだまだ元気いっぱいな女性になら、その子供の姿を直接確認して依頼ができるようになったわけだ。

保育士不足は解消、しかも保育士の実習はそのまま将来の自分の子供の子育ての基礎実力に

なる。子供を育てることの大変さも喜びも

保育園で実感できた上で、子を持つことができる。やっぱり向いてなかった、ということがなくなるオマケもついてきた。

日本は漸く、人口減少による絶滅の心配が無くなる、少子化のスパイラルから抜け出すことに成功したのであった。

#小説 #第2回note小説大賞