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アラサーの葛藤は世界共通?北欧映画『わたしは最悪。』が描く“恋愛“と“自立“の物語

ノルウェーのヨアキム・トリアー監督による2021年のダーク・ロマンティック・コメディドラマ映画『わたしは最悪。』をオンライン視聴しました。。2021年、第74回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門でプレミア上映が行われ、主人公ユリアを演じたレナーテ・レインスヴェが女優賞を受賞しました。

クオーターライフ・クライシスのケーススタディ

ノルウェーの首都オスロで暮らす主人公ユリアの20代後半から30代前半の恋愛、家族、妊娠、キャリアなどを描いた本作は、最近話題の「クオーターライフ・クライシス」のケーススタディのようにも映ります。

東洋経済の記事によると、

20代半ばから30代前半にかけて訪れるとされる「クォーター・ライフ・クライシス」(以下QLC)。就職や結婚、出産等の重大イベントを迎え、自分の人生に対して「このままでいいのか?」と悩み、漠然とした不安や焦燥感に苛まれる時期のことを指す。

https://toyokeizai.net/articles/-/540293

本作をQLCに照らし合わせると、5つのフェーズが描かれますが、フェーズ2が最も魅力的なシーンとなっています。

【フェーズ1】
仕事、恋愛、あるいはその両者において、自分がした選択のせいで閉じ込められてしまっているように感じる。いわゆる「自動操縦」の状態。
【フェーズ2】
「ここから抜け出さなければ」と感じ始め、「思い切って飛び出せばなんとかなるのでは?」という想いが募っていく。
【フェーズ3】
仕事を辞めたり、恋愛関係を終わらせたりして、自分を閉じ込めていたものと決別。あらゆるものから距離を置き、自分が誰であり、何をしたいのかを見つけるための「タイムアウト」状態に入る。
【フェーズ4】
ゆっくりと、だが着実に、人生を再建し始める。
【フェーズ5】
自分の関心や目標に合致したことに、熱意をもって取り組むようになる。

https://toyokeizai.net/articles/-/540293

北欧のオスロを舞台にしたストーリーなので、日本とは異なる面もありますが、アラサーにありがちな葛藤を描いた作品という点で、普遍性を備えているのではないかと思います。

ここからは、ネタバレ注意。


ウーマンスプレイニング

ユリアの性格について、ウーマンスプレイニングというキーワードが登場します。マンスプレイニングの女性版ですね。

Weblioによると

マンスプレイニング(英語: mansplaining、男(man)と説明する(explain)という動詞の非公式な形のsplainingのブレンド語)は、「(男の)見下したような、自信過剰な、そしてしばしば不正確な、または過度に単純化された方法で女性や子どもに何かについてコメントしたり、説明したりする」という意味の批判的な用語である。

https://ejje.weblio.jp/content/mansplaining

ユリアはちょっと生意気なところがあり、時々、配慮に欠ける言動が見られます。なんというか……イキってて鼻につくところがあるのですが、かわいいし、医学部に進学するような頭脳の持ち主なので、許されてるのかなぁという感じ。年上の恋人アクセルもマンスプレイニングな面はあるので、似たもの同士のような気もします。
ただ、本作のユリアを見ていると、「あの日、あの時、私もそうだったかも……」と気付かされることもあって、だからといって、視聴者を自己嫌悪にさせる作品ではなく、「人は誰しもそういう面があるのかも……」と不思議な肯定感に満たされます。

北欧の自由で複雑なラブストーリー

ユリアの両親は離婚しており、シングルマザーの母親の元で育てられました。母親との関係は良好ですが、父親はユリアに対してあまり関心がないようです。ユリアが恋人と一緒に父親の新しい家庭を訪問するシーンが、当たり前のように描かれているので、親子関係はノルウェーと日本では、ずいぶん違っているのかもしれません。

ノルウェーは、機会均等・社会参加・利益などで男女の差がない反面、離婚するカップルも少なくありません。しかし、離婚後の子どもの養育環境に対する国民の意識は高く、法制度も充実しているようです。

ノルウェーでは、結婚せずにサンボウエ(同棲)のままでいる割合が増加中しているそうです。本作では、ユリアと2人の恋人のサンボウエ生活が描かれます。

トリアー監督曰く「現代の女性は結婚する必要も、ある程度の年齢で子供を持つ必要もない。その一方で、僕たちは恋愛において成功しなければという、大きなプレッシャーを感じている。難しいね」

恋愛や結婚に関するプレッシャーは、日本もノルウェーも共通しているのかもしれません。

自分の部屋を持つこと

本作の映像には、芸術の都オスロの記憶、空間、時間が表現されています。トリアー監督にとってのオスロは、マーティン・スコセッシやスパイク・リーが見せる、彼らならではの特別なニューヨークと同じなのだそう。

年上の恋人アクセルと別れたユリアは、同年代の新恋人アイヴィンとの生活をスタートさせます。ユリアが2人の恋人と暮らした2つの部屋、離婚した母や父の家、書店やカフェ、別荘やパーティなどは、私たち日本人が憧れる北欧のライフスタイルそのものです。

アイヴィンと別れたユリアは、一人暮らしを始めます。自分部屋を持つことは、経済的に自立することであり、クオーターライフ・クライシスを克服するプロセスのように感じられました。

北欧の暮らし、生活水準は?

本作のストーリーとは別に、ノルウェーの生活というものが気になったので、調べてみました。

CEICによると、

ノルウェーの月収は、2021に5,910 米ドルを記録しました。

https://www.ceicdata.com/ja/indicator/norway/monthly-earnings

日本の月収は、2022-04に2,243 米ドルを記録しました。

https://www.ceicdata.com/ja/indicator/japan/monthly-earnings

ノルウェーの月収はなんと!日本の2倍以上なんです!

物価も高いのですが、生活水準は日本を上回っているようで、うらやましいかぎり。日本も経済大国と言われた時代があったのになぁ。

わたしは最悪。
(英題:The Worst Person In The World)
7月1日(金)公開
◆監督:ヨアキム・トリアー 『テルマ』(17)、『母の残像』(15) 
◆出演:レナーテ・レインスヴェ、アンデルシュ・ダニエルセン・リー、ハーバード・ノードラム 
© 2021 OSLO PICTURES - MK PRODUCTIONS - FILM I VÄST - SNOWGLOBE - B-Reel ‒ ARTE FRANCE CINEMA
/2021 /ノルウェー、フランス、スウェーデン、デンマーク/後援:ノルウェー大使館

https://gaga.ne.jp/worstperson/


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