大阪のおじいちゃんの話

僕の大阪のおじいちゃんの話をしたいと思う。

京都のおじいちゃんがいたから、その対を成す存在として「大阪のおじいちゃん」と呼んでいたのだが、かつての同期ウイスキールーキーの漫才に「おじいちゃんが2人いるの気持ち悪いな!」というネタがあって、とても共感したのを覚えている。
確かに、おじいちゃんと呼ばれる存在が2人いるのって変じゃないですか。
だって2人同時に居たらそれぞれを何て呼べばいいの?
おじいちゃん、って呼んだら2人とも振り返っちゃうもんな。
ウイスキールーキーのネタはそのあと「どっちのおじいちゃんが強いか戦わせよう」と続くのだが、もっと平和的な決め方はないのかね!?と僕の心のおじいちゃんっ子が訴えかけてた。いい子でしょ。

京都のおじいちゃんはめちゃくちゃ怖くて子ども扱いしてくれないし将棋も全然負けてくれなかったけど、大阪のおじいちゃんは対照的に、とにかく底抜けに優しかった。

大阪のおじいちゃんにとって孫は僕しかいなかったからか、やたらと心配してくる。
顔を合わせたらまず「元気か?」「風邪引いてないか?」「お腹空いてないか?」っていつもめちゃくちゃ気にしてくれて。
中でも一番気にしてくるのが、

「寒くないか?」

本人が夏でもクーラーどころか扇風機もつけないくらいとてつもなく寒がりだったから、季節関係なくこの質問。

夏のお昼過ぎ、僕がリビングでうたた寝していると大抵暑くて汗だくになって目を覚ますのは、いつもおじいちゃんが寝ている間にタオルケットを首から足のつま先まで全身にしっかりかけてくるからだった。
「暑いって!」ってタオルケットをどけると、
「風邪引くから!!」ってまた全身にかけられた。

そんなおじいちゃんが去年の夏に熱中症で倒れた時、クーラーもかけてない部屋で3枚着込んだ上から更にチョッキを着てたのが原因だったと聞いて、「らし過ぎる話だなぁ」と思わずニヤリとしてしまった。おじいちゃんごめん。
でもおじいちゃん、駆けつけてくれた救急隊員の人も部屋に入って「暑っ!そら倒れますわ!!」って言うぐらいさすがに暑かったらしいよ。
皆さん、夏は絶対クーラーつけましょう。

おじいちゃんと僕はいつも、あんまり会話が続かなかった。
おじいちゃんはいつも質問を3個くらいしたら、「そうか~」って言ってそれで終わる。
僕も携帯触ったりテレビ見ながら話してるから、それで終わるのがそんなに気にならなかったけど。

僕がお笑い芸人になるって言った時も「大丈夫か?」って言われたから「やりたいから、頑張るしかない」って答えたら、またいつも通り「そうか~」って。
後から聞いたら、僕には直接何にも言わなかったのに親父には「何で許したんや!?」って死ぬほど怒ったらしい。おじいちゃんは真面目な人だったから、真面目に就職して欲しかったんだろうなぁ。
でもYouTubeで僕らの漫才を見せたら、「へぇ~、(漫才のテンポが)早くておじいちゃんよく分からんけど、頑張ってんねんなぁ。そうか~」って嬉しそうに言ってくれたこともあったっけ。

たまに生存報告のために大阪の家に電話をする時、いつもお決まりのくだりがあった。

おじいちゃんが出るとまたいつものように「元気か?」「風邪引いてないか?」って質問されて、「大丈夫やで元気やで」って答えたら、また「そうか~」って。

で、必ず「おばあちゃんと喋ったってくれへんか」って言うのだ。

この”おばあちゃんと喋ったってくれへんか”という言葉が何とも嬉しくてこそばゆかったのは、孫の僕と伴侶であるおばあちゃんへの二方向への愛が直接的ではなく、でも端的にギュッと詰まっていたからだと思う。

当然いつも「いいよ!」って言うから、そしたら必ず「おばあちゃん!友くんとちょっと喋り!早くおいで!」って、電話の向こうでおばあちゃんを呼ぶ声がする。

あのおばあちゃんを呼ぶ声を、もう聞くことは出来ない。

熱中症で倒れて入院生活が始まってから1年ちょっと。
僕と同じ干支、申年生まれのおじいちゃんは先日、86歳で亡くなった。

今年の1月におじいちゃんと撮ったこれが、おじいちゃんとの最後の写真になってしまった。

この頃はまだ意識がハッキリしていて、おじいちゃん写真撮ろうよって言ったら、「もうすっかり老けてもうたから、おじいちゃんみたいに写ってまうのが嫌やなぁ」とか何とか言いながら、この写真を見て「えらい綺麗に撮れてるなぁ。最近の携帯のカメラは凄いなぁ」なんて嬉しそうにしてくれてた。
あと、僕が着てるアウターを見て「えらいあったかそうなん着てるなぁ。これやと寒くないなぁ」って、最後まで寒さの話をしてたな。

そんなおじいちゃんの寒がりの話をお通夜でみんなとしてたら、おばあちゃんがボソッと「やっと夏クーラーかけれるわ」って言ってるのを聞いて、また思わずニヤリとしてしまった。おじいちゃんごめん。
おばあちゃんは、これから先迎える夏全部、ちゃんとクーラーかけて長生きしてね。

しかしもうすっかり秋めいてきて、夜は寒いなぁ。
ちゃんと布団を全身にしっかりかけて寝ようと思う。

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