桜井の話②

相変わらず目立つのが好きだった中学生の僕も、サッカー部のキャプテンをやったり、文化祭で友達と一緒に女装してステージに出たりした。
ただ一方で、不良ぶって授業を抜け出したり、他校の生徒とトラブったり、悪い目立ち方もするようになった。

散々親に迷惑をかけて、一部のクラスメイトにも疎まれて、それでも自らを省みずに悪目立ちすることを止めなかったのは、単に勉強も運動もそれなりに上手くいっていたからであった。
学力も学年で20位以内だったし、サッカーでも最終的に滋賀県ベスト8の成績を残せたので、そんな感じでも体裁が保てていたのだ。

そんな鼻高々&ふんぞり返り状態で進学した高校で、僕の人生が一変する。

僕が進学した洛南高校は京都随一の進学校で、関西中から賢いやつがわんさか集まってくるのだが、学校生活が始まってすぐにビックリが大量発生した。

「あれ?こいつらめちゃくちゃ賢くね?」
「運動神経もいいやつばっかじゃね??」
「ってか、金持ち多くね???」

今考えるとそりゃそうなのだが、公立の小学校から公立の中学校に進学した僕は完全に井の中のならぬ琵琶湖の中の蛙で、世間には当然僕より賢くて運動も出来るやつなんかわんさかいるわけで。
男子で成績が1番だったやつは足も1番早かったし、バスケで県大会に出てたりサッカーで全国大会に出たことのあるやつが、勉強も僕より全然出来た。
しかも僕の高校に来るやつの親はみんな医者だったり有名企業に勤めてたりで、金持ち度合いも半端じゃない。
こうして、中学までの鼻高々&ふんぞり返り状態な僕は、入学1ヶ月も経たずに大白旗を上げざるを得なくなった。

勉強は難しすぎてついていけないし、体育でも大して目立てないし。
何より1番プライドがズタズタになったのが、他のクラスの番長に絡まれた時だった。

中学まではそこそこ悪さしてましたけど?的なやつがいるらしいという噂を聞きつけたガタイよすぎ怖すぎ同級生に見えない同級生に呼び出されて恐る恐るついて行ったら、第一声「調子乗ってんの?」と同時に壁をドーーン!!!とお殴られになったそのパワーと躊躇のなさに、ヘラヘラしながら茶を濁さざるを得なくなってしまい、
「あー、この学校には俺より頭が良くて運動神経も良くて金持ちのやつがいて、そいつが喧嘩も俺より圧倒的に強いのか。もうどれでも勝てないじゃないか」と今まで味わったことのない敗北感に苛まれた。
自分が何にも秀でず特徴もない、全くの無個性な人間になってしまった気がしたのだ。

こうして、それまで築き上げてきたプライドやメンツ、そして今までの目立つための術を全て失ったことで絶望していた僕だったが、ある日友達と話していてふと、自分がクラスの誰よりもバラエティ番組やお笑い芸人に詳しいことに気付いた。

「あれ?勉強でも運動でも目立てないけど、お笑いなら目立てるかもしれない」

こうして僕は、自分が目立てる場所をお笑いにすることを決意した。

つづく

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