八丁堀小町おさきの事件帳

「黒い金魚」

6、おさきへのごほうび

忠太は、二十年の間に名前と仕事を変えて、「金魚屋藻平」になりすましていた。盗賊だった昔のことなど、だれもおぼえていないだろう、とゆだんをして金魚を売り歩いていた。だが、ある日、声をかけてきた客が、ぐうぜんにも以前の牢仲間、虎吉だったのだ。
思いがけない再会により、虎吉じいさんは、伊勢屋の真珠の話を思い出した。
好奇心から、忠太の店まで出かけていき、どうにか黒い金魚のひみつをさぐり出したのはよかったが、酒のいきおいで近所の連中に言いふらしたのがわざわいした。忠太と同じ盗賊団の一味だった金吾とお銀が、うわさを知り、じいさんをおそって、忠太の居どころをききだした。そして、同じ長屋に住む楓まで、忠太や虎吉の仲間と思われて、お銀にねらわれたのだった。

忠太たちが捕らえられてから数日後、ふたつの真珠は、無事に伊勢屋に返された。
「おさきちゃん、せっかく伊勢屋さんがお礼をくださるとおっしゃったのに、ことわったんだってね」
「悪いことをした人をつかまえるのは、父上のお役目だもの、当然のことをしたまでよ。楓さんは、お礼をいただいて、もっといい長屋に引っ越したんでしょ」
父の留守に、楓はおさきの家に来ていて、話をしていた。
「ええ、まあ、ね」
礼金のことを言われて、楓はもじもじしていた。
「もとはといえば、楓さんが父上に知らせてくれたんですものね。でも、わたしも父上からごほうびをもらったのよ」
「おさきちゃんが?」
「そう、金魚よ、ほら。虎吉さんのところで買ってもらったの」
と、小さな鉢を指さした。
金魚が大好きな虎吉じいさんは、体がよくなると、藻平の店をひきついで金魚屋になっていたのだ。
おさきは、鉢の中を泳ぐ二匹の赤い金魚を見て、うれしそうに笑った。
(「黒い金魚」終わり)
#時代小説 #子ども向け#探偵小説#推理

自然と歴史の勉強につかわせていただきます。決して、飲み代宴会代にはいたしません byお天気屋