八丁堀小町おさきの事件帳

「すずめ小僧(こぞう)」

1、「すずめ小僧」

近ごろ、江戸をさわがせている事件の主役。それは、“すずめ小僧”に、ほか
ならない。
すずめ小僧は、大名屋敷しかねらわない。もとは火消し(今の消防士)で、身軽な男。誰も傷つけず、屋根から屋根へと
すずめのように飛びうつり、貧しい人たちに、小判の雨を降らす。
そんなうわさが、町人たちの間に広がって、すずめ小僧の芝居までつくられる
人気ぶり。
毎回、立ち見も出る大人気で、芝居の役者の錦絵(今のポスターみたいなもの)
は、売れに売れた。もちろん、本当のすずめ小僧の顔は、誰も知らないのだが。
あたりまえのように、おさきも興味を持った。だが、同心の父、木村拓磨は、
どろぼうをもてはやすなど、とんでもない、と冷たい。
「おさき。どうして、すずめ小僧が大名のお屋敷しかねらわないか、わかるか」
「もちろん、お金がたくさんあるからで
ございましょう? 」
おさきが答えると、父は苦笑いした。
「それもあるが、本当のわけは、もし盗みに入ったところを見つかると、町人は命がけで取り組んでつかまえようとする。それにくらべて、お殿さまは世間の評判を気にして、盗みにあってもほとんど届けを出さない」
「お屋敷にどろぼうが入っても、おさむらいは、何もしないのですか? 」
おさきはふしぎそうに首をかしげた。
「何もしないわけではない。だが、大名屋敷は広くて、金の置いてある奥の部屋には奥方や女中がいることが多い。男の番人が来るのはどろぼうが逃げた頃だ」
父の話をきくと、もっともだと感心するよりは、なんだかがっかりした。
そんなおさきの肩を軽くたたくと、父は、にっこり笑って、はげますように、
言った。
「そんなことより、今日、町でお浜ばあさんと息子の米松(よねまつ)に、久しぶりに会ってな」
「えっ、お浜おばあさんに? 」
「そうだ。ばあさん、なにか気になって
相談したいことがあるようすだったから、こんどの休みにでも行ってみようと思うんだが、おまえもいっしょに行くか?」
「はい、ぜひに……」
お浜ばあさんは、父、拓磨の子どもの頃からの知り合いで、江戸の町はずれで、お米や野菜を作っている。息子の米松と二人暮らしで、おさきも父と一緒に何回か、その家に行ったことがあった。
八丁堀とちがう、お浜ばあさんの村の空気を思い出すと、おさきは、顔も知らないすずめ小僧のことなど、すぐに忘れていた。
(続く)
#探偵小説#子ども向け#時代小説

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