八丁堀小町おさきの事件帳

「黒い金魚」

5、金魚屋藻平(きんぎょやもへい)

「きんぎょ〜え〜きんぎょお〜」
金魚屋の売り声を遠くにききながら、
おさきは父のすぐうしろを歩いていた。頭の中は事件のことでいっぱいだった。
拓磨の仲間の同心たちが見張るあいだ、金吾とお銀は何度も、金魚屋の藻平という男に会いに行った。
父からそれをきいたとたん、おさきの頭に、あることばがひらめいた。「黒い金魚」-あのとき、虎吉さんはそういったわ!
いよいよ、父が藻平に会いに行くというので、子ども連れのほうが警戒されないかもしれないから、とたのんで、おさきもついてきた。
ただし、どんなあぶない目にあうかもしれないので、なるべく父の近くにいることを約束して。
「きんぎょ〜え〜きんぎょお〜」
てんびん棒の両はしにおけをぶらさげた金魚屋の姿が、目に入った。
拓磨は、金魚屋を呼んだ。
「おい、金魚屋」
「へーい」
まのびした返事をして、てんびん棒をかついだ男がふりかえる。
「娘が、めずらしい金魚を欲しがってなあ」
父がいうと、おさきは続けて言った。
「おじさん、わたし黒い金魚がほしい」
「ざんねんですが、あっしのとこにいるのは、赤い金魚ばかりでして」
金魚屋藻平は、ぶっきらぼうに答えた。おさきは、あきらめない。
「ねえ、おじさんの店がこの近くにあるってきいたの。そこに黒い金魚がいるんでしょ。ねえ、おねがいよ」
おさきが必死にたのむと、藻平は、拓磨が腰に差した十手をながめた。それからしぶしぶ、家と店をかねた場所に親子を連れていった。
そこには、地面に木のわくで仕切られた水槽のようなものがいくつかあった。
そのうちのひとつに、琉金のように腹のふくれた黒い金魚が五、六匹泳いでいる。その中の二匹はぜんぜん元気がなく水の底をはうように、のろのろ動いている。
おさきは、水の底の二匹を指さした。
「わたし、あれとあれがほしいわ」
「あ、あれは売れねえんです」
藻平の顔から、あぶら汗が吹き出す。
「娘がいうのだ。あの二匹を網ですくえ」

父がどなると、藻平はふるえながら、黒い二匹の金魚をすくいあげる。
おさきはかけていって、小さな白い手でその網をひっぱり、はねまわる二匹を宙に投げた。
「な、何するんでえ!」
藻平が叫ぶのと同時に、おさきが声をあげた。
「父上!」
拓磨の刀が、宙を舞う黒い金魚にむかってきらめいた。
次の瞬間、二匹の金魚の腹が、さっと切りさかれた。中から地面にこぼれ落ちたもの-それは、日の光をあびて七色にかがやく、ふたつの大きな真珠だった。
おさきは、こわごわ、まだ金魚の血がついた真珠を地面から拾って、手ぬぐいにつつみ、ふところに入れた。
金魚屋藻平-いや、もと盗賊の忠太は、黒い金魚の腹をひらき、盗んだ真珠をひと粒ずつつめて、器用に皮を縫い合わせていたのだ。
「忠太! おまえ、やっぱり、あたしたちをだましたんだね。真珠など持ってないって言って」
するどい声がひびき、家のかげから、お銀があらわれた。刃物を手にした金吾もいっしょだ。
拓磨は、おさきの小さな体をひきよせた。おさきも父の腕をしっかりつかむ。
「おじょうちゃん、真珠をわたしてもらおうか」
金吾が低い声でいった。
おさきは首を左右にふる。そのすきに、藻平こと忠太が走りだした。
「そうはさせないよ! 待ちな!」
お銀がさけぶと、金吾は忠太に切りかかった。だが、拓磨の刀が早かった。
金吾は刀のみねで腕を強く打たれ、刃物を落としてたおれた。
そのとき、奉行所の同心たちが五、六人、十手を手に「御用だ! 」と、とびだしてきた。
「金吾、お銀、藻平-いや、忠太。しんみょうにお縄をちょうだいしろ!」
拓磨の大きな声があたりにひびいた。
(続く)
#小説#子ども向け#推理#探偵




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八丁堀小町おさきの事件帳

小中学生向け時代小説!江戸時代、八丁堀に住む、同心の娘“おさき”の名推理を描く。「黒い金魚」のみ偕成社より 書籍化、出版されています。
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