八丁堀小町おさきの事件帳

「ながもちの役者」

1、着物のかわりに

きょうだいのいないおさきには、坂野美和という、姉のように思っている、年上の友人がいた。美和の父、坂野源太郎は与力(よりき=今でいう刑事)で、おさきの父、木村拓磨の上司にあたる。
家もそう遠くないので、親子ともども、坂野家には、よくお世話になっていた。
近いうちに、美和は祝言(結婚式)をあげることになり、そのしたくで、坂野家は忙しそうだ。ひとり娘なので、夫になる男性が、坂野家に、婿入りすることになっていて、美和はずっと同じ家に住む。でも、おさきは、姉のような人が、
急に大人になったような気がして、少し
寂しかった。
そこで、新しい着物を何枚か買うことになり、呉服屋から、ながもち(今でいう衣装ケース)に入った着物が届く日がやってきた。
美和はもちろん、その母のふね、遊びに来ていたおさきも、うれしそうに、ながもちをとりかこむ。
「どんなふうに、仕立ててあるかしら」
ふねと美和の親子が、ながもちのふたをそっと持ち上げてずらす。しかし、中を見た二人の顔から、突然、笑顔が消え失せた。
「ああ、ひ、人が入っている」
そう言ったきり、ふねは気を失った。
「あっ、母上! それにこの人、死んでいるみたいだわ。どうしよう……おさきちゃん」
美和は、母を抱きおこすと、おさきにすがるような目を向けた。おさきもびっくりして、ながもちの中を見ようとした。そこへ、この家の主人、源太郎が、
帰ってきた。
「どうした? 何のさわぎだ」
ながもちの中をよく調べて、おさきは、言った。
「この中に、二人の男の人が入っています。一人は死んでいて、もう一人は生きていて、寝ているようです。坂野様」
坂野源太郎は、目を見開いて立ち尽くした。
(続く)
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