「すずめ小僧」

5、いつの日か、きっと

「あと少しで、つかまえられるところ、
あと本当に少しのところだったのに」
役人たちは、くやしそうに言いながら、すずめ小僧が逃げたほうを、見ていた。
もちろん、役人のうちのかなりの人数が、すずめ小僧を追いかけたが、あまりに逃げ足がはやいので、あきらめて日が昇る頃には、それぞれの仕事に、戻っていた。
おさきの父、木村拓磨も、ほかの役人たちと一緒に、すずめ小僧の手がかりを探そうと、歩きまわった。
しかし、あの小刀と手紙のほかは、足あとすら残っていなかった。
おさきも、自分なりに考え込んだ。
「おじょう様。そうがっかりしなさることは、ありませんよ」
お浜ばあさんは、気落ちしているようすのおさきに、声をかけた。
「あの男が、すずめ小僧だと気がついただけでも、おじょう様はたいしたお方です。あたしも米松も、そんなこと、夢にも思いませんでしたよ」
「だからこそ、父上に、すずめ小僧をつかまえていただきたかったのに。やはり
すずめ小僧は、みんなにもてはやされる
だけのことはあった、ということなのかしら……」
おさきが肩を落とし、ため息をつくと、父の拓磨が、近寄ってきた。
「いや、今度はあと一歩のところまで、追いつめたんだ。あいつも人間だよ。
今にかならず、しっぽを出すに違いない。おまえのおかげで、お屋敷のお金も取り戻せた。じゅうぶんにお手柄だぞ」
父がはげましてくれたので、おさきは、いつもの笑顔を見せた。
色が白くて、たまご形の顔を、少しかしげると、父の顔をのぞき込むようにして、言った。
「そうね。いつの日か、きっと、すずめ小僧もつかまる日がくるに違いないわ！
私も、すずめ小僧の悪知恵に負けないように、お勉強します」
「まあ、おじょう様。元気になられたのは、なによりですが、あんまり、あぶないことはしなさらんように。ねえ、木村様。気をつけてあげて下さいませ」
お浜ばあさんは、心配して言った。
「はいはい、お浜ばあさん。おさきの知恵を借りなくてすむように、父もせいぜい勉強にはげみますぞ」
拓磨がおどけて言うと、三人は、顔を見合わせて笑いあった。
(「すずめ小僧」終わり)
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