見出し画像

童話小説「ガルフの金魚日記13」

冬さんは、がっくりとうなだれたぷくに、気が付いたようです。
「そ、そうだけど、ぼくは一生懸命きみの世話をしたよ。どんなエサがいいか、熱帯魚屋さんのおじさんにきいて、ちょっと高かかったけど、いいエサをあげ、水を換え、金魚鉢に変な藻がついて病気にならないように、ガラスをごしごしみがいて…」

 そういえば思いだしますねぇ、あのころのこと…。ぷくぷく。
 ぷくはこの家に来て、金魚鉢にポチャンと入れられました。いまのあさがお形の金魚です。

ぷくのまわりには、だれもいません。あんなにたくさん、ぷくのお友だちや仲間がいたのに。きっとぷくの兄妹たちもいたのだと思います。いつもみんなと、わいわい遊んでいたのに、いまはひとりぼっちです。
この家にきて、気分が落ちついてくると、まわりを見る余裕ができてきました。

ぷくのいるところは、うす暗い部屋のようです。どこかの机の上でしょうか、置かれています。
 きょうからここで暮らすのでしょうか。これからどうすればいいのか、途方にくれていました。

「まあー、まあー、これかい。冬ちゃんが買ってきた金魚というのは」
 だれだろう。おばあちゃんが近づいてきて、金魚鉢に顔をのぞかせています。
「こんなとこにおいてちゃ、かわいそうだよ」

 ぷくを抱きかかえました。どこへ行くのでしょう。ぽちゃぽちゃ水が揺れ、それにつれ、ぷくの体もふわふわと揺れます。
 ぷちゃぽちゃ揺れているうちに、気分が悪くなってきました。波酔いしそうです。ウップ。

 置かれたところは、太陽の光がさんさんと降りそそぐ、明るい場所でした。
「ウワっ、まぶしい!」
いままでうす暗いところにいましたので、目がクラクラくらんで開けられません。

「ここでどうだい。あんたは、あたしのそばにいればいいよ」
「ぷくぷくぷくー」

「おや、それがあんたの返事かい。気にいってくれたようだね」
 おばあさんはかってにそんなことをいっています。
そこは、おばあさんが座っている出窓でした。

ここからは、青い海と蒼い島々。近所の人やおばあさんのお友だちがやってきては、ひながおしゃべりをしています。
それをぷくは、聞くとはなしにきいていました。
ここはとても明るくて、景色がよくて、とても気にいっています。

     明日の金魚日記へつづく

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?