見出し画像

Music and Sound Quality -10 スピーカーセッティング

「音楽が持つエモーションをきっかけに、あと少し音楽へ近づくこと。そして、その音楽のエモーションの受け取りが、あと少しでも多く出来る再生音質の実現について、日ごろもろもろと思うところを書いていきます。第10回目です。」

(最初の投稿から1年が過ぎ、内容の見直しと加筆修正をしています)。


今回は、音楽再生でリアリティを高めるために、誰でも手軽に行える、スピーカーのセッティングの方法について、書いていきたいと思います。


一般環境下での音質改善

リビングルームなどの一般的な住環境で、理想的な再生環境を実現することは、そもそもとても困難なことなのかもしれません。

使用している再生機器・部屋の環境・目指したい音の方向性・予算額などにより、数えきれない制約や選択肢の中で進めていくことになります。

また、人により前提条件や優先順位の付け方もさまざまです。更には、無数にある改善ポイントの組み合わせ方でも、再生音への効果が変わったりもします。

そのために、何から手を付けていいのか分からなくなる、ということもしばしば起こります。しかし、ベストを望むのではなくベターな環境を作ると言うならば、直ぐにでも出来ることは多くあるのではないでしょうか。

スピーカーセッティングによる再生音改善

そのような、誰でもすぐにできる音質改善の項目として、スピーカーのセッティングが挙げられます。

スピーカーセッティングには、少し気を付けて整えるだけで、大きく音質改善が出来る可能性があります。もちろんその方法に、唯一の正しい方法が有るというわけではありませんが、次に基本的セッティングの進め方の一例を、紹介したいと思います。


再生する音楽のタイプによってもセッティングは異なりますので、調整に使用する音源は普段聴くジャンルや好きなアーティストの中から、自分にとって聴き取りやすい音を含んだ、心に沁みる曲を中心に選んでいけば良いと思います。

そのような音や曲は個人ごとに違ってきますので、評論家が紹介する曲などよりも、まずは自分に合う音楽から初めて、だんだんと幅を広げていけば良いのではないでしょうか。


スピーカーセッティングのセオリー

スピーカーの設置位置については、CardasやVandersteenなどの、一般的に知られたセオリーがあります。実際のリスニング環境では変動要因が多く、セオリー通りにはなりませんが、調整のスタートポイントとして活用する価値は十分にあると思います。

私が試したあるケースでは、Cardasは広がりとステージ感と余韻が良い反面、低音がブーミーになる傾向がありました。一方のVandersteenでは、定位・奥行・分離に優れていました。ただし音楽のタイプによって、このイメージも変わると思います。

Vandersteenでは、部屋の縦横寸法のそれぞれ1/3, 1/5, 1/7のから、設置位置を選ぶことが出来ます。まずは部屋の中で実際に使えそうなリスニングポイントを決定し、そこから左右対称で等距離の候補位置から、調整を開始してください。リスニングポジションが後過ぎると、サウンドステージの広がりが減少し、前過ぎると音の一体感や繋がりに問題が出てきます。

画像1

画像2


次に、実際の楽曲をあくまでも一例として取り上げて、セッティングの進め方を紹介していきます。


スピーカーセッティングの実例 - サウンドステージ

確認内容: ボーカル音像サイズと左右の音の広がり及び繋がりのバランスが取れる位置を決める

使用楽曲: Salley/Sunrise and Sunset/セカイ (アーティスト/アルバム/曲名)

調整方法: 左右スピーカーの位置を、セオリーで決定したスタート位置からそれぞれ左右方向に動かして、ベストなポイントを見つけます。移動は必ずしも左右対象にはなりません。最初はラフにそれぞれのスピーカーを動かして大まかな位置を探し出し、最終的には出来れば1cmから0.5cm単位で追い込んで下さい。ある程度の根気がいる作業になりますが、このような手間が必ず音質の差を生み出しますので、頑張っておこなってみてください。

確認ポイント①: ボーカルイメージが正面センターにくっきりコンパクトに現れること。そして左右正面と動くギターの音が、繋がりと広がりを持って再生されること。

確認ポイント②: 全体的な構成音が左右のスピーカーの間で展開されるのではなく、スピーカーの存在感を越えた広がりを表現しつつ、全体的な繋がりと一体感を保っていること。また、各種演奏音とボーカルの音像のサイズ感と距離感に不自然さがないこと。


スピーカーセッティングの実例 - 低音の量・質感

確認内容: 適切な量と質で低音が出るポイントを探します。中高域の音は主にスピーカーの前方に放射されますが、低音は全周方向へ放射されますので、背後の壁との距離を変更し反射音の量を調整することで、低音の量と質を調整することが出来ます。

音量が単に大きければ良いという物ではなく、判断にはリアルな音を判断基準として持っていることが求められます。音色や他の帯域の音との音量バランスは、信頼が置けるイヤホンシステムで確認し、参考にすることも出来ると思います。

使用楽曲: きのこ帝国/愛のゆくえ/Last Dance

確認ポイント: ギターとドラムとベースのシンプルな音に、ボーカルが加わった構成です。このバスドラムとベースの存在感がある響きと音色で、低音の確認を行います。まずバスドラムでは、切れの良いシャリという高めの音を伴ったアタックと、バスドラム本来の厚く重く迫るような響きが合わさった音の響きと余韻と圧を確認します。

ベースではその音量の程度と、波動を感じさせ転がるような分厚い音色が、どこまで表現されるかを確認して下さい。また40秒間のイントロの間で、音量の変化はあっても、一度の途切れもなく常にベースの音が鳴り続けることも、重要なポイントになります。

また、女性ボーカルの声にも中低域の成分が多く含まれ、声のキャラクターに大きな影響を与えています。そのような声の質の変化も確認していきましょう。


スピーカーセッティングの実例 - インシュレーター/スタンド/ベースの効果

確認内容: スピーカーフット周りの対策効果の確認

使用楽曲: きのこ帝国/愛のゆくえ/Last Dance

確認ポイント: 音の締まり・重心の変化・音像イメージの明瞭さ

低音確認と同じ楽曲で、インシュレーターやスタンドやスパイクなどの、フット周りの対策効果の確認を行います。スピーカー付属のゴムフットは、音質よりも落下防止的な意味合いが強い物で、音質改善を考えるのであれば、それを目的としたものの使用を検討してみて下さい。。

バスドラムで密度感や締まり、ベースで重心や余韻、ギターでキレや明瞭さなどを、インシュレーターの有無で比較確認して下さい。


スピーカーセッティングの実例 - 音像・定位

音像の定位はオーディオではとても重要な事柄ですが、これは視覚的な位置関係を音で表現するためにステレオの仕組みを利用し、制作段階で加工して付加された音楽再生環境特有のものです。音源化の過程で減少した音楽のリアリティを補強し、再生音にリアリティを感じるための、オーディオ的付加価値として重要な手法です。

音像とは相関性のある音が、2つの音源(スピーカー)から発せられた時に出来る、聴覚心理上の虚像のことで、現実世界で一つの音源(アーティスト)から周囲に広がった音を聞く体験とは、根本的に異なる事象です。

また、再生音にリアリティを感じるための要因は人により異なるので、定位の重要性は絶対的なものではなく、音楽としての本質的な価値というものでもありません。

定位感は、音を構成する周波数成分や、スピーカーシステムの構成や特性により、大きく変わってきます。例えば、単純な正弦波信号では定位は分かりにくく、また一般的にはユニット数が多いスピーカーは周波数特性に有利で、少ないスピーカーは定位感に有利になってきます。

確認内容: 構成音の定位・音像を確認する

使用楽曲: GRAPEVINE/ALL THE LIGHT/雪解け

確認ポイント: 定位の明確さや、前後左右上下の位置関係とバランス、音像の引き締まったサイズ感などを見ていきます.


スピーカーセッティングの実例 - 空気感・音楽性の再現性確認

確認内容: 最後に自分に響く曲を使用して、エモーショナルな部分を含めた、楽曲の空気感や音楽性を確認する。

使用楽曲: Salley/Sunrise and Sunset/サンライズ・アンド・サンセット

確認ポイント: 余韻や細かな音の表情、音像のリアルさなどへの感度を高めて、楽曲が持つ表減を受け取る。

スピーカーの内振り(少し内側に向けること)で、音の圧や存在感のイメージが変わってきます。これに関しても、環境と好みによりさまざまな意見がありますが、自分の環境条件と聴く曲のタイプに応じて、適度に調整して聴いてみて下さい。


その他のポイントについて

スピーカーセッティングに関するその他の大きなポイントとして、音の反射のコントロールがあります。これは、大きく3つの要素に分けて考えることが、出来るのではないでしょうか。それぞれで、手軽に行える代表的な改善手法を、簡単ですが書いておきます。

① 定在波(部屋に起因する本来不要な共鳴)を抑える

  カーテンを閉める、吸音するものを置く、スピーカーを壁から離す、内振り角度をつける、など

② 反響(音楽性を補強する自然な響き)を確保する

  平面で固い壁や家具の表面に凹凸をつける、吸音するものを少なくする

③ 左右の壁による音の反射が強い場合、センター位置からの反射も補強してセンター音像を確立する

  スピーカー間のセンターに凹凸のあるものを配置する



今回触れたようなポイントを意識して環境を見直していくと、再生音質が徐々に変わっていくことが感じられると思います。是非参考にして、楽しみながらいろいろと試してみてください。

今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。次回も、引き続きよろしくお願いします。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?