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「学生節」とボブ・ディラン

クレージーキャッツの関連楽曲で、ぼくがいちばん好きなのは「学生節」(1963年)である。クレージーというと大半は青島幸男と萩原哲晶のゴールデンコンビが手がけているが、本曲は代表曲のひとつながら、作詞が劇作家の西島大で作編曲が山本直純という異色コンビによるものだ。

ブラスバンドが規則正しい4拍子を奏でる依存性の高い曲調の中、最たる聴きどころは1番の植木から2番の谷へと繋がるところ。このツートップの歌声が間奏を挟まずして並ぶ構成も異色で、個性のコントラストが他の楽曲よりも強く感じられる。

植木等の鮮明度は驚異である。ボーカルの強弱にかかわらず聴き漏らしそうな音がひとつもない。浄土真宗の僧侶を父にもち、自身にも修行時代があったというから、それは特別な家庭環境から授かったクルーナーボイスとみていいのかも知れない。一方、谷啓のそれはいわばトロンボーンボイス。丸みを帯びていて素っ頓狂で、彼が生涯演奏した楽器と同じ印象を抱かせる。どちらもほんと、唯一無比のボーカリストだ。

西島大による歌詞は、1番では息子を信じなさい、2番では娘を信じなさい、3番では生徒を信じなさいとつづく。親世代の価値観が古いことをやんわり諭している内容であり、これってそういや“理解できない息子や娘が親の言いなりになるわけないさ”と歌うプロテストフォーク「The Times They are a Changin'(時代は変る)」に似ている。発売順を確認してみると、1963年12月にでた「学生節」のほうが約1ヶ月だけ早い。ちなみに「Blowin'in the Wind(風に吹かれて)」の初出は1963年5月。「学生節」の1番には“風が吹いたらナンマイダ”とある。うーむ。

歌謡界に青島&萩原コンビがもたらしたノベルティセンスの革命は、若き日のエルヴィス・プレスリーに楽曲を提供したリーバー&ストーラーのそれに相当するものだろう。また生真面目な性格ながらヒトを喰ったサウンドを生みだした萩原個人を誰かに喩えるならビートルズのプロデューサー、ジョージ・マーティン以外には思い浮かばない。そして「学生節」から連想できるのはボブ・ディランというわけで、総じてクレージーキャッツはロックのパイオニアと親和性が高いのである。

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