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納得いかない昔ばなし

幼少の頃、わが家には昔ばなしの絵本がけっこうあった。墨や切り絵で雄々しく描かれた立派なやつである。それゆえ恐ろしい物語はより恐ろしく、そうでない物語も不気味にみえたものだ。

洋邦問わず、昔ばなしには違和感をおぼえる内容が多い。人間じゃない生き物が口を聞くとか、そういうことじゃなくて。たとえば意地が悪い人に対する仕打ちがきつすぎたり、ちょっとした親切に対する御礼が仰々しかったり。この結末から何を学べばいいのかと首をかしげるものもある。そんな作品を以下にランキング形式で自選した。題して「いまだに納得いかない昔ばなし5選」。


■第5位「花咲か爺さん」

~善良と無抵抗は同じ意味ではない~

善良な老夫婦と欲深い老夫婦がいて、善良なほうの飼い犬が庭で「ここ掘れワンワン」と言った場所を掘ったら大判小判がでてきて・・・という話。ひっかかるのは、欲深いほうが犯した罪が洒落にならないレベルなのに、善良なほうは抵抗しないばかりか隣近所に住みつづけるのである。犬を殺され、臼(財宝が成る臼)を燃やされ、その灰(枯れ木に花を咲かせる灰)も奪われているのに。最後に殿さまからほうびを貰っていても、犬が死んだ時点でめでたしめでたしとは思えなかった。


■第4位「おむすびころりん」

~そんなに悪いことしていない爺さん~

おむすびを落としたら、転がってネズミの住む穴に。爺さんも誤って落ちると「おむすびの御礼に」と葛篭の大小を選ぶ展開となって・・・という話。ひっかかるのは、欲深いほうの爺さんに対する過度な仕打ちである。ぼくの絵本だと、地底から出られず一生さまようという結末だった(ラストカットが恐ろしすぎた)。葛篭を2つ貰おうとしたのがいけなかったわけだが、何もそこまでしなくても。おむすび貰えてるし。あと細かいが、山を転がるおむすびを諦めないモチベーションも異常である。


■第3位「鶴の恩返し」

~恩返しのわりに要求が多い~

罠にかかったところを助けてもらった鶴が、若い娘に化けて・・・という話。ひっかかるのは恩返しで来たのに趣旨を説明せず、その間「道に迷ったので一晩泊めてください」「布を織りたいので糸を買ってきてください」「絶対覗かないでください」「これを売ってまた糸を買ってきてください」など、逆に老夫婦への要求が絶えないことである。布が高く売れたからよかったものの、下手すりゃただの横柄な娘だ。一晩と言いつつ何泊もしたのは大雪が止まなかったからだが、もしも一晩で止んでいたら、ふつうに一泊して帰った可能性もある。


■第2位「うさぎと亀」

~亀は亀で、かいかぶっている~

こちらはイソップ童話。健気な弱者が強者を負かすという、昔ばなしのなかでも特に多い展開である。「うさぎと亀」の場合は亀の努力ひとつで導いた結果ではないのでひっかかる。それに、有名な童謡の歌詞に注目してもらいたい。なんとおっしゃる うさぎさん / そんならおまえと かけくらべ / むこうのおやまの ふもとまで / どちらがさきに かけつくか・・・ってコイツ、端から勝てると思ってやがる。うさぎはもとより、亀もあまりいい性格をしていない。うさぎのほうが見た目可愛いので、無条件に応援したい気持ちもある。


■第1位「浦島太郎」

~だったら行かねーよ~

説明不要だろう。ぼったくりの水商売、あるいは藤子不二雄Aの「笑ゥせぇるすまん」にも通じる結末だ。そう考えると冒頭でいじめられていた亀といじめていた子供たちは実は共謀者で、浜辺で罠を張っていたという説が浮かぶ。時を忘れるほど長居したのが悪いという見方もあるだろうが、竜宮城が善良な環境ならば、誰かが「じゃあ浦島さん、そろそろ」って言ってあげればよかったのだ。そもそもこのシステムを知っていたら浦島太郎は断ったと思う。気の毒でしかない昔ばなしである。

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