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見ちゃいけない二人を見たら

大人になると色々ある。
なに不自由なく暮らしているように見えても、裏へまわればため息の種の一つや二つあるものだ。
それが恋愛ごととなれば尚更である。


10代の頃は恋の噂話というものに興味津々で「誰それが付き合ってるらしい!」みたいなことでたわいなくきゃっきゃしていたが、大人になるにつけそんな単純じゃなくなってくる。
自分も周りも、人に言えることばかりじゃなくなってくるのだ。



昔むかし、一週間の内に二度同じホテルの同じバーに行ったことがあった。
別の場所で食事をした後、たまたまそこに飲みに行くことになったのだ。
一度目はお世話になっていたおじさんと、二度目は仲の良い男の先輩とであった。
二人とも単なる友達で、まったくやましい事は無い相手だ。


おじさんはお店の人とバンバン話すタイプなので、その日もバーテンダーの方と談笑しながら遅くまで飲んだ。
その数日後、今度は先輩と行くことになった。
私は「そこ数日前にも行ったんですけど」などと言う必要もないと思って普通について行った。


すると入口で「いらっしゃいませ」と出迎えてくれたのは偶然、先のバーテンダーの方だった。
私の顔を認めたのは一瞬の表情でわかったが、何事もなかったように、むしろ「はじめまして、ようこそ」みたいな雰囲気で席へ案内してくれた。


こ、これが大人の世界か‥‥!
と思った。
もし私がおじさんと先輩をこっそり手玉に取ってる(?)としたら、挨拶なんてされたら困るもんな。
接客が超一流として名高いホテルだが、さすが〜と思った。
逆に同じメンバーで行っていたら即座に「先夜はどうも」と気さくな会話で出迎えてくれるのだろう。



それから私も色んな恋をしたり見たりしながら、良くも悪くも成長した。
見ちゃいけない二人を見たら素知らぬ顔で通り過ぎるようになった。


ある日、会社から自転車で帰る途中、反対側の歩道を歩いている見ちゃいけない二人を見てしまった。
女の子の方が私に気づいてハッとしていたが、私はさりげなく人差し指を唇にあてて彼女にウインクをし、スピードを緩めずさーっと通り過ぎた。
(我ながら映画の一場面みたいなことしたなと思った)


翌日、会社で彼女がこっそり話しかけてきて、
「津田ちゃん、昨日‥‥」
「うんうん、大丈夫大丈夫。大人になると色々あるよね〜」
と言った。
私は何も見なかったことにしようと思っていたのだが、それ以来彼女からガチガチに恋愛相談をされるようになり、すっかり仲良くなってしまった。


そもそもその会社というのは噂の回るのが異様に早く、日曜の夜に目撃された二人の話が月曜の朝には広いフロア中に広まるという世にも恐ろしい所であった。
その後、ひょんなことから私が超・憧れているスーパー素敵な女の人が意外な人と付き合っているのを知ってしまったこともあった。
私は例によって知ってしまったことをおくびにも出さずに過ごしていたのだが、よその部署の男が私の机に来て
「津田ちゃん大変。俺〇〇さんが△△さんと手つないで歩いてるの見ちゃった!」
と嬉々として報告してきたので、おのれ〜〜と思い、
「ちょっとぉそんなのほっといてあげて。絶対言いふらしたらダメだからね!」
と釘を刺した。
案の定広まっていたが。



しちゃいけないことをしているのは本人達はよくわかっているのだ。
でも色んな事情やいきさつがあるのだ。
みんなすごく悩んでいる。(突然実感を込めまくる)
だから私としては基本的に「お二人におまかせします」みたいな態度で生きていきたいなと思っている。

 

‥‥いや、しかし‥‥。
そっとするのが適切な態度とは限らないか‥‥。
たとえば友達の彼が他の人と一緒にいる所を目撃してしまったら?
それは言ってあげた方がいいのかもしれないし‥‥。
自分だったら言って欲しい気もするし‥‥。
‥‥‥‥。
悩むな。


まあ、時と場合によるってことでいいかな。
(急に弱気になって尻すぼみで終わる)







↓ ちなみにこの時の会社じゃないです




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