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#5 こんな日があるから生きていられる

 最低だ。朝、ベッドの上で目を開き、昨夜、ベッドの中に入るまでのことを思い返して、まずそう思った。ベッドの下には、昨日着ていた服が雑に放られている。ため息をつきながらトイレに立つと、シンクが目に入る。洗っていない食器が置かれていた。普段、まずそんなことが無い分、何もかもが面倒に感じる。

 用を足しながら、ストレッチをしてから風呂に入って、歯を磨いて、洗濯をし、メシを食べてまた歯を磨いてと、これからすべきことを考えだしたら、それは途方もないことに思え、トイレを出ると、またベッドに戻ってしまった。

 それからスマホをいじりだしたら、時間はあっという間に溶けていき、気づけば2時間くらいを無駄にした気がする。いくら急ぎの仕事が無いとはいえ、これはまずいなぁと思いつつ、それでも動かない体。その時にふと、今日はあったかいんじゃなかったかと、昨日見た天気予報を思い出す。どうにか起き上がってカーテンを開けると、とても晴れていて、窓を開けると、陽射しをまとってやわらかいような風が入ってきた。その瞬間、こうしちゃいられないと、すぐに一日を開始。だいぶ遅くなったけど。

 諸々のやらなきゃいけないことを済ませ、歩いて代々木八幡宮へ。気持ちがいい。何となく、思い切り息を吸い込んでは吐いてみる。とてもいい感じ。すこし風は強いけど、気温も四月中旬並とのことで20℃近くあり、2月だというのに、ロンT一枚で出てきたが、それでも全然寒くない。

 代々木八幡宮に行くと、梅が咲いていた。もう春も近いんだなぁと思いながら、参拝の順番に並ぶ。ご老人が次々に参拝をしていたが、ほとんどの人が大きい鈴のようなものを上手く鳴らせず、ただ鈴から垂れる紐を揺らすだけのような状態になっていた。そして、すこし恥ずかしそうにしていた。だから僕は注意しながら、どうにか鳴らした。

 代々木八幡宮を後にし、代々木八幡駅の構内を通ってドトールを目指していると、改札の前に人身事故を知らせるボードが出ていた。そういえば、さっき聴いていたラジオで、成城学園前駅で人身事故があり、経堂~向ヶ丘遊園駅間が運転見合わせと言っていたなと思い出す。

 ただ暖かく晴れているというだけで、ここ数日もやもやと悩んでいたようなことも薄れる自分みたいな人間がいる一方で、こんな日に電車に飛び込んでしまう人もいるのかと、やるせない気持ちになる。僕なんて、こんな日のために生きている気さえするのに。

 こういう日が、お金持ちとかそういうの関係なしに、誰しもに平等にやって来てくれるのは救いだなとつくづく思った。

 ただ、帰って来ると干していた洗濯物のエアリズムが隣の部屋のベランダに飛ばされていたことだけが悲しかった。どうやら、東京は春一番が吹いたそうです。

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