範宙遊泳『うまれてないからまだしねない』Actors' Profiles No.2 大石将弘

 最新作『うまれてないからまだしねない』(2014年4月19日~27日 東京芸術劇場シアターイースト)に出演する10人の俳優たち全員に、ひとりひとり、話を聞いていくインタビューシリーズ。

インタビュー&構成=藤原ちから&落 雅季子(BricolaQ)



大石将弘 Masahiro Ooishi

1982年生まれ。奈良県出身。2010年よりままごと所属。

北九州や名古屋、小豆島など日本各地に滞在・移住しながら、ままごと・柴幸男とのクリエイションの他、東京・横浜を中心に演劇公演に出演。小中高校や地域で行われる演劇ワークショップのファシリテーターやアシスタントとしても活動。

おもな出演作に、ままごと「朝がある」(作・演出:柴幸男)、マームとジプシー「Kと真夜中のほとりで」(作・演出:藤田貴大)、NODA・MAP「エッグ」(作・演出:野田秀樹)、日本劇団協議会「SEX,LOVE&DEATH」(作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ+ナイロン100℃)、FUKAIPRODUCE羽衣「女装、男装、冬支度」(作・演出・音楽:糸井幸之介)などがある。

 ままごと http://www.mamagoto.org


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 大石将弘は、ままごと(主宰・柴幸男)の劇団員。様々な演出家との仕事で舞台俳優としてのキャリアを重ねていく一方で、昨年はままごとの滞在制作にも参加し、小豆島での日々を過ごした。一念発起して会社を辞め、演劇の世界に飛び込んだ彼は今、何を考えているのか。言葉を探りながら淡々と話す口ぶりの中に、確かな芯を感じる。


▼初参加となる範宙遊泳

「お邪魔しまーす。あ、ここ履いたまま?」

——ええ、そのまま靴でどうぞ。

「1人目から盛り上がってたみたいですね。僕は短めでいいですよ。夜になっちゃうから」

——いえ、ゆっくりお聞きしたいです。大石さんは初めての範宙遊泳ですよね。観てはいた?

「最初は「20年安泰。」で、それから『さよなら日本』まで最近のは観てますね。最初の印象は「あ、若いな」って。悪い意味じゃなく、何かに対してすごく問題意識を持ってるんだなって。でも『幼女X』は物語でいくぞっていう覚悟と、すごくシンプルに2人の俳優とプロジェクターの灯りだけで。最小のことで豊かにやろうとするのはかっこよかったですね」

——今回はオファーがあって?

「特に『幼女X』を観た時に、俳優の居方とか、変な身体のあり方とか気になっていたのもあって。あと、芸劇に立ったことなかったから、それもいいなあと」

——やっぱり、どこの舞台に立ちたい、という欲求はあるものですか?

「ありますね。単純に、いろんな劇場や場所に行ってみたい。シアターコクーンでもやってみたいし、(小豆)島もいいな、とも思うし。ままごとで島に行きましたから」


▼ままごと・柴幸男との出会い

——そもそも、ままごととの出会いは?

「……僕はもともと奈良県出身で、関西に24歳までいてお芝居をやってました。でもなんか大阪や神戸で、似たようなことばかりやってんなあ、みたいな印象で魅力を感じなくなって、違うところに行きたいと思った。でもお芝居で東京に行くって言うと親に絶対反対されるのを説き伏せるだけのものも今ないなあと思って、就職したんです。……っていうか違うな、ん、なんだ……大学時代に出会った人たちと劇団をやっていくっていう範宙遊泳みたいなスタイルがあると思うんですけど」

——ありますね。共通言語があるというか。

「僕はそういう仲間はみんな先に卒業して就職しちゃったんです。だから僕はやっていくとしたらひとりでフリーしかないんですけど、関西ではビジョンがあまり持てなくて、バイトに追われて生活が大変になって結局……という未来だけはごめんだなと思ったのと、あと単純に仕事はしてみたかったから、就職する形で東京に出て来たんです。で、仕事しながらできるお芝居に出たりしていく中で、柴幸男の作品と出会って、これは久しぶりにやってみたいと思った時にちょうどオーディションに受かってしまったもんだから、ここだと」

——『スイングバイ』ですね。

「そうです。柴の作品を最初に観たのは『御前会議』でしたね。チラシの文章がすごくよかったんですよ、挑発的で。そのあと追っかけみたいになって、どうやって仲良くなれるかとタイミングを見計らってました(笑)」

——『スイングバイ』は柴さんと容貌が瓜二つでびっくりしました。

「影武者……ってね、未だに言われます(笑)」

——そして仕事を辞めて演劇に飛び込んだ。

「辞め時を探していたのもあって。仕事は仕事で面白かったから、そういう人生もアリかなと思ってはいたんですけど。それまで幾つかオーディションも受けて、落ちたり受かったりで考えてはいたんですけど、柴さんのに受かった時に、「あ、これはもうここだな!」感があって。で、合格のメールが制作の宮永(琢生)から来たその日に、上司に「ちょっと僕、辞めます」って言って、その年度で辞めました」

——その日に……。「ここで飛べ!」みたいな感じですかね。

「物事を決める際に「断れるか断れないか」ってわりと考えてて、まあ流されて生きてるんですけど、柴さんの芝居を断るという選択はないな、と思ったんですね。これを断ったら、例えば10年後20年後にどう思うかなって」

——「あの時の人生の後悔」とか……

「想像するんですよね。どっちみち後悔はするだろうと思いながら、「次、生まれ変わったら今度は芝居をやって生きていこう」とか思いながら死ぬくらいなら、じゃあ、いいか、って」

——今が生まれかわる時だと。

「もともと、自分の人生終わってて価値があんまなくて(笑)、でも演劇やりはじめてちょっと面白くなっちゃって、ほんとに人付き合いの苦手な僕がこんなことできるんだなと、と思ってたので、せっかくだから、余生を過ごすつもりで……」

——余生っていいですね(笑)。で、ままごとで第2の人生をスタートさせ、正式に入団されたわけですけど、『スイングバイ』(2010年)の後は『朝がある』(2012年)まで、ままごとでは出番なかったですよね?

「2年くらいなかった(笑)。toiの『華麗なる招待』(2010年)をやった後に1年半か2年くらい空いて、今度は北九州芸術劇場プロデュースの『テトラポット』(2012年)を一緒にやったのが柴さんとの仕事ですね。ままごと本公演の仕事は『朝がある』までなかった」

——それが『朝がある』ではいきなりの一人芝居! 素晴らしかったです。

「ほんとに、波乱……。意味が分からないですね(笑)」


▼小豆島での体験。演劇を研究する人

——大きなホールで舞台に立つ一方で、小豆島での滞在制作などもあり、近年のままごとの活動には振れ幅がありますけど、俳優としてはどう感じてますか?

「でも不思議と、柴の興味関心とか、劇団の進み方がわりと身体に合うんです。柴が演劇と関わるスタンスが1歩2歩くらい僕の先を行ってる感じがして、ちょうど腑に落ちるテンポなんですね。東京でやって、地方公演やって、島で暮らして……。これは彼もよく言ってたんですけど、劇場もない、演劇もあまり観たことのない島の人たちにとって、演出家とか脚本家とか俳優とか制作とか、そういう区別はもうどうでもよくって、「演劇の人」や「演劇屋さん」でしかないんですよね。俳優だから台本がないと何もできない、というのは、ちょっと使えねえなって感じなんですよ」

——確かに、島ではそういう雰囲気でしたね。

「それはほんとそうで、俳優がひとりで何もできないのは納得いかないと思ってたから、島でそういう状況に追い込まれて、とうとうそれを克服する時が来たかと」

——「演劇屋さん」としてやろうと。

「脚本・演出ありきで俳優として仕事するのも楽しいんですけど、ひとりの人として演劇と付き合うことを最近よく考えるんです。……音楽家の友だちを見てると、夜を徹して遊んだり酒飲んだりの後に、仮眠からムクッと起きて楽器を弾いたりしてて、ああ、この人の生活には音楽が、歯を磨くようにしてあるんだなと。生活の時間に溶けてる感じがあるんですね。でも俳優が稽古がないとダメなのとかは、演劇と生活が分離してる感じがあってイヤだし、気持ち悪いというか、それでいいのか?、と思ってしまって。もっと演劇と共に暮らすことはできるんじゃないかと、考えている……んですねえ」

——その感覚は大切なものだと思います。

「ある友だちが、「俳優って、アーティストじゃなくて研究者だと思う」って言ってて、わりと腑に落ちたんです。演劇作品がプロダクトの商品開発プロジェクトだとすると、演出家であるスグル君は開発のプロジェクトリーダーで、僕は研究者です。商品開発そのものはしないけど、普段から研究しながら生きていく。そういうのもアリかもなって。演出とか俳優とか、そういう職能や役割はあると思うんですけど、島に行って「俳優です」って言ってもわからなくて、「演劇屋さん」はギリギリなんとか通じる。それもよくわからない存在なんですけど、いちおう俳優の役割を担うことの多い人間として、演劇を考えながら生きていくということをやってますね」


▼ワークショップの現場で

——大石さんはワークショップの現場にも入られていますけど、ああいう場もまた、生活と演劇を密接にしていくものですよね。

「面白いですね。小学校や中学校の授業の時間に行って、まあ僕はまだ今はアシスタントとして入ることしかしてないんですけど、その子たちがこの先必ずしも演劇をやるわけじゃないし、俳優を育てる授業でもない。子どもたちの演劇に対するイメージもぼんやりしている。そういう中で、自分が何を「演劇」としているのかが試される感じがするんですね」

——演劇観が問われると。

「ワーッとみんなで遊んで「これも演劇だよ」っていうこともいくらでも言えるし、「身体で何か表してみよう、楽しかったね」っていうのあるんですけど……ん、それが演劇だったっけ?、とも思って。基準が自分の中にないと、子どもに何も言葉を発せられない現場なんですよね」

——とってつけた言葉は通用しないですもんね。

「俳優をやってるとわりと演出家がずっと語ってくれるから、自分の言葉を持たなくても、まあ死にはしない、ってところがあるんですけど、自分がどう考えてるかをちゃんと整理して、腑に落ちるような言葉を持たないと、ワークショップでは喋れない。テストとかのわかりやすい基準もないし。だから自分の面白い/つまらないと思う感覚をまず信じて、その原因を言葉で言い当てることを毎回やることになりますね」

——単にメソッドを適用すればいいということではなくて、試行錯誤していくということですかね?

「そうですね……。「あ、今何かあったぞ!」っていう種や芽を日常の中に見つけて、なんでそう感じたかを繋いで覚えておく、っていうようなことが、意外と、生活と演劇の接点なのかもしれないですね。ちょっとまだわかんないですね……。でもワークショップは楽しいです」


▼怒られても全然いいんです

——一方で、大石さんは舞台での活躍もとても印象的で、先日のFUKAIPRODUCE羽衣『女装、男装、冬支度』でもかなりヤバい狂気の男を演じていて、びっくりしました。

——(落)私、下手最前列の絶好の「大石ポジション」にいたんです。

「大石ポジション……?」

——(藤原)まあこの人はただの大石ファンなので無視してください(笑)。それより、舞台といえば、ケラリーノ・サンドロヴィッチさんとのお仕事を今年もされるそうですね……。

「はい、秋のナイロン100℃の本公演に出演することになっています。去年KERAさんと一緒にお仕事させてもらったこともあり。やっぱりいわゆる演劇作品をつくって上演する仕事にも興味があるし、それとは別に今年もまた島に行ったりワークショップをやったりすることもできるでしょうと。様々な形での演劇をやりたいと思ってます」

——そして新年度の最初が、この範宙遊泳『うまれてないからまだしねない』ですが、稽古場ではどんなことを実感されてますか。

「スグル君は研究意欲の高い演出家で、今までのに準じたフォーマットでやるのではなくて、身体の使い方も、発話の仕方も、彼の考えるメソッドがあって、だから自分の中にない新しいやり方を提案されています。かなり手探りですね」

——それはキツさも含め?

「キツさ……拠り所のなさかな。初めてやる演出家・劇団だし、性格的に怒られるのが怖いから、余計なことやらないようになっちゃうんですよね、最初は。言われたことを正しくやらなきゃって。そうすると今までやってきたことに頼って、それっぽくやってしまう。嘘つきながらやってんな、っていう感じは自分でもあったんですけど、でもやっと最近、あ、いかんいかんと思い直してやってます。スグル君の言ってることや、範宙遊泳の座組の雰囲気がやっと身体に馴染んできた、空気が入ってきたから、これくらいやっても怒られないぞっていう」

——たぶん怒られませんよ(笑)。いや、怒られるかもしれないけれども。

「ええ。怒られるのは全然いいんですよ。別にへこまない。……や、へこむけど、いいんです。最初、相手がどういう人かわかるまで、自分は距離感遠いところからジリジリ詰めていくんでしょうね。波佐谷君とかは、1回ガッとこう行ってから探るんだろうけど(笑)。ほんとは絶対、怒られたほうがいいです」

——今回は終末の物語だそうですが、その中でどういう役を演じるんでしょうか?

「会話劇やダイアローグが好きなんですけど、最近ずっと独りで喋ってますね、稽古で。他の9人とは別のレイヤーに最初は居る感じが……します。しますよ(笑)。でもだんだんそれが溶けて……という感じですかねえ。作品世界についてはちょっとなんとも……。モノローグといっても作家によってスタンスが違うから、最初は喋るだけ、みたいな感じだったんですけど、今は3つくらいの状態を使い分けていく感じになってます」

——『うまれてないからまだしねない』を、生まれ変わった男が演じるわけですね。

「ああー、ハハハ」

——今作の見所があれば教えてください。

「そうだな……見所ねえ…………見所。うーん、でもやっぱり俳優が面白いと思うんですよね。範宙遊泳のこのところの作品では世界観がバキッとあって、それを鑑賞するという感じはあるんですけど、そのスグル君の優れたテクストを超える人たちが揃ってるというか、もちろん世界観は体現するんだけど、結構みんな勝手に……いや勝手にっていうか、面白いなって思いますね。うん、俳優見てれば面白いです」

——ひとりひとりが?

「そう、みんなが」

——では見所は「俳優」ということで。

「そういうの、作家が言えばいいと思うんですよね(笑)。お客さんが見所を見つけに来てくれたら嬉しいです。はいっ、ぼそぼそした声ですみませんでした!」

 (ままごと『朝がある』より)


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次回は伊東沙保です。お楽しみに。


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