マリみてSS「君のせい」

お題:有馬菜々(2023/04/12)

【1】

「ごきげんよう」
「ごきげんよう。ところで菜々さん、なにか嬉しいことでもあった?」
「…ないってば。それより、もう先生来るわよ」
私はそう言って、口元を抑えながら席についた。

軽い茶色い三つ編みの髪。
大きな瞳と濃い眉。
私達姉妹は背丈が変わらないから。
隣に立つと。
妙に近くに感じて。
「…なによ、菜々」
訝しむ、というよりも。
「…何でもありませんよ。睨まなくてもいいじゃないですか」
仮にも伝統あるリリアン女学園の、黄薔薇さまともあろうお人が。
「黙っていれば、なのになあ…」
「なんか言った?」
「いえ、何も」
可愛いのに、なんて言ってあげないんだ。

【2】

「ごきげんよう」
「ごきげんよう。ところで菜々さん、なにか嫌なことでもあった?」
「…ないわよ。それより、もう先生来るわよ」
私はそう言って、乱暴に筆記用具を出した。

「昨日のお昼にね、令ちゃんがね」
はいはい。
この人の大好きな「令ちゃん」の話は、始まると長くてしつこいのだ。
祐巳さまの話では、かつては姉妹崩壊になりかけた事もあったとおっしゃっていたが、はたして本当だろうか。
「で、その後に令ちゃんがね」
全く。
この人の頭の中には、「令ちゃん」以外入っていないのだろうか。

【3】

「ごきげんよう」
「ごきげんよう。ところで菜々さん、なにか悲しいことでもあった?」
「…ないって。それより、もう先生来るわよ」
私はそう言って、瞳を拭ってから席についた。

「…というわけで由乃は体調を崩しちゃったから、明日は出かけられないんだ」
「そうですか。わざわざご連絡ありがとうございます、令さま」
いつだったか。由乃さまは心臓が弱く、手術をした今でも時々体調を崩されると聞いた。
「由乃が一番楽しみにしてたと思うんだ。だから、由乃のこと許してあげてよ」
「許すだなんてそんな…お体、ご自愛されるようにお伝え下さい」
受話器を置く。
誰が悪いわけでもない。
だから、許すとか、怒るとか。
そういうのじゃないんだけど。
私達は、あと一年だけしか姉妹でいられないから。
そのうちに、もっと色々なことがしたくて。
(…なんて、素直に言えたらな)

【4】

「ごきげんよう」
「ごきげんよう。ところで今日の菜々さんは…」
「人を天気予報みたいにして遊ばないでくれる?それより、もう先生来るわよ」
毎日毎日、私の心をコロコロ替えてくれるのは。
(あなたのせいですよ、お姉さま)

あとがき
ショートオムニバス形式になりました。
元々は同名の曲を聞いていて、「これって由乃さんのキャラに合ってないか?」と思っていたんですが、そのまま菜々に引用しました。
由乃さんに振り回される菜々、っていいですよね(癖)

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