マリみてSS「Blessing」

お題:誕生日(2022/11/20)

叔母が、泣いている。
母が、抱きしめている。
幼い私には難しいことは分からなかった。
ただ、目の前の小さな命が、長くはないということだけは理解できた。
私は、叔母の手を取り、こう言った。
「私が―」

(なんで今さら、あんな夢を―)
令は額に手を当てた。
それは、ずっと昔の記憶。
心臓に病を抱えた由乃は、今はもう手術をしたことで、もうかつての弱かった由乃ではなくなったというのに。
(そうか、今日は由乃の誕生日か)
あと何度迎えられるか分からない少女の誕生日を盛大に祝うのは分かるが、それは過去のものとなった今でも変わらない。
(ま、気持ちは分かるけど)
なぜなら、嬉しいから。
目出度いことを祝うのは、今も昔も、洋の東西も問わないから。
今日もきっと、島津支倉両家が揃ってお祝いするに違いない。
「私も嬉しいし、ね」
ベッドから体を起こす。
今日の主役のお姫様を起こしにいかなければ。
騎士の仕事も、大変なのだ。

今年の誕生会も、いつものお店で開かれた。
なにかと理由をつけては祝いたがる両家の気持ちに水を差すのは野暮というもの。
親戚付き合いの社交の場であり。
島津由乃という一つの命が、今年も生きていてくれたことへの、感謝の場。
それは、ただ飲み食いしたいだけでもあり。
なにかを祝いたいだけでもあり。
そして、大人たちの間では、まだ「小さくて弱い由乃ちゃん」のままなのだ。
それを、ただ黙って受け止めるほど大人でもなく。
愛想笑いもできないほど子供でもない由乃は。
「本当に、うちの人間は祝い事が好きだよね」
もう当人を忘れて騒ぐ大人たちを尻目に、由乃は苦笑いをした。
「まあ、それがうちの良いところじゃないかな」
由乃は賢い娘だ。
病弱だった頃の自分が、いかに周囲に迷惑をかけてきたか。
その気持ちを知らないような娘じゃない。
「本当にね」
そういえば、と由乃が手を叩く。
「菜々がさ、私に誕生日はいつだ、って聞いてきたのよ」
あの子らしいね、と笑う由乃。
サプライズ、なんてしないのだろう。
真っ直ぐな菜々ちゃんらしい、と令は思った。
彼女が由乃の妹になったことは、由乃にも良い影響を与えているようだった。

「令ちゃん、私って祝福されてるんだね」
そう言って笑う由乃の笑顔は、なによりも輝いていた。
ああ、そうだ。
思い出した。
私があの時言ったのは。
「そうだね」
そう言って、由乃を抱きしめた。

「私が―」
母の手を引き、私は言った。
「私が、由乃と一緒に生きるから」

あとがき
ブレッシング。「祝福」という意味の言葉ですね。
ラグナロクオンラインのプレイヤーにはお馴染みかもしれません。
元々は、ワンドロのお題が「ステップ」になったら使おうと思っていたものを、令さまと由乃さんに置き換えたものです。
機動戦士ガンダム  水星の魔女のオープニング曲「祝福」からイメージを得ました。

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