マリみてSS「Walking With You」

お題:佐藤聖(2023/03/08)

三月。
春を前にしても、まだ冷たい風が頬を撫でる。
ここリリアンとも本当にお別れ、か…)
聖は目を伏せた。
幼稚舎からこの四年間の大学生活まで。
随分と長い間ここリリアンには世話になった。
葉が落ち去った銀杏並木も、もう見ることはないだろう。
悔いはない。
良い思いも悪い思いも。
好きなことも嫌なことも。
喜怒哀楽のありとあらゆる感情をここリリアンで過ごしてきた。

「卒業して四年も経つのに、紅薔薇さまの力は有効だったなんてね」
現れたのは、待ち合わせ時間のきっかり五分前。
几帳面な蓉子らしい。
「元、とは言っても、薔薇さまだったからね」
守衛さんも、流石に私達の顔は忘れていなかったようだ。
呼び出しておいて門前払いでは格好がつかない。
「卒業おめでとう、聖」
微笑みの中に一抹の寂しさのようなものを感じたのは、自分がもうここリリアンを去った者だからだろうか。
「ありがとう、蓉子」
そう答えると、私達は並んで歩き出した。
校舎に人気は全くなくて、まるで時が止まったようだった。
「あのとき、蓉子が言ってくれたよね」
思い出すのは、自分が三年生になったあの日のこと。
蓉子と江利子は私に黙って志摩子を薔薇の館に呼び出して、それを知った私は怒鳴り込んだ。
「なにを?」
口論―いや、蓉子は至って冷静で、私だけが激しく取り乱していて。
「『私はあなたの弱い部分も好き』って」
醜態を晒した私に、そう蓉子は言った。
「そうだったかしら」
蓉子は目を伏せた。口ではとぼけてみせたが、その顔には「覚えている」と書いてあった。
「栞を失ったあの時の私には、自分の弱いところなんて大嫌いだった。弱さなんてなかったら、栞と一緒に生きていけたのに、って」
今なら言える。
「でも、蓉子が好きって言ってくれた自分の弱いところも、だんだん認められるようになってきてさ」
今なら言わなくてはならない。
「あの言葉に、私は救われたんだ」
確かな気持ちを、今なら。
私が差し出したのは、ロザリオだった。
「ちょっ…ちょっと待って、聖!私達同級生なんだからロザリオの授受なんて…!」
蓉子は珍しく狼狽えていた。
「だってもう蓉子はリリアンの生徒じゃないんだから関係ないでしょ?」
私はロザリオの輪を広げた。
「でも、聖だってリリアンの…あっ!」
蓉子はそこまで言って、ハッとして口を抑えた。
「私もリリアンを卒業したんだから関係ないよね?」
今の私は、きっと悪い笑顔をしていただろう。
いつも冷静な蓉子をここまで狼狽えさせたのが自分というのが、なんだか嬉しいような、恥ずかしいような。
とても一言では表せない感情だった。
蓉子は観念したのか、ため息を一つ吐くと、頭を下げた。
その首に、私がロザリオをかける。
「改めて思うんだけど…恥ずかしいわね、これ」
「それは同感」
まだ風は冷たいのに、お互いに小っ恥ずかしくて頬が熱かった。
だからか、お互いに顔を見合わないまま有るき出した。
「ところで聖…?」
半歩後ろを歩く蓉子が、私の袖を軽く引っ張る。
「この場合って私達ってどっちが姉で妹なの?」
「どうでもいいじゃん、そんな事はさ」
私達は手を繋いで歩き出した。
それはまるで、新米姉妹のように。

あとがき
聖蓉ネタです。
「聖蓉でロザリオ授受させたい!」という、僕の完全な欲望で書きました。
聖蓉は結ばれないところがまた魅力なんですけど、あえてくっつけてみるのも二次創作ってなモンです。
タイトルはNovelbrightの曲名から拝借しました。


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