マリみてSS「Storyteller」

お題:山口真美(2023/06/14)

人は見えないものに惹かれてしまう。
見えているものよりも、ずっと。
そして、その見えないものに光を当てて、見えるようにする自分の仕事に。
誇りを感じてしまう。
そして、それは。
錯覚さえも感じてしまうようで。
少しの自画自賛と。
少しの自己嫌悪。

「そういうことね。ありがとう」
手帳に記入をし、礼を言う。
真美はため息を吐いた。
昼休み、福沢祐巳と松平瞳子があわや殴り合いのけんかになったという一報を掴んだ。
何人かに裏付けを取ると、それは話の尾ひれであったことが分かった。
祐巳さんがそんなことをする人でないことは分かっていたから、そんなことはないと思っていたから、この結果はある意味当然である。
(それにしても)
人の噂話の広がる速さは凄まじく、その変化もまた、凄まじい。
女という生き物は、と、自分が女であることを棚に上げてでも、そう思いたくなる。
自分は、自分以外の人間への好奇心は隠せないものなのだろう。
私の姉、三奈子さまも、そのようなタイプの人だった。
最近、祐巳さんは、薔薇の館へ行くことを避けていた。
昨日は校門の前でずぶ濡れになっていた。
そして、松平瞳子との口げんか。
(スクープ!紅薔薇革命…なんてね)
お姉さまなら喜々として記事にしただろう。
ただ、自分はそんな気にはなれなかった。
ウケればいいだけなら、飛ばし記事を書くことは出来る。
ただ、それはできなかった。
クラスメイトを売ってまで。
誰かを傷つけてまで。
記事にしようとは思わなかった。
とはいえ、無視することもできなかった。
多分、これは。
良くない予兆。
小笠原祥子さまが欠席されている。
福沢祐巳はロザリオをしていなかった。
分かっているネタだけを集めてみても―

外野は面白がって騒ぎ立てるだろう。
(私に出来ることは…)
気になって仕方ないのだ。
福沢祐巳と小笠原祥子の姉妹に。
この気持ちは。
真実をただ知りたいだけなのか。
クラスメイトがただ心配なだけなのか。
野次馬根性なだけなのか。
分からないけど。
話を聞くことは出来る。
無実なら汚名を晴らす場を用意することはできる。
だけど。
もし、真実なら―
首を振る。
自分にできることは。
真実を明らかにすることだけ。
「紅薔薇革命は起こるのか、否か」
「何、それ」
杞憂になりそうだ。
間の抜けたクラスメイトの顔に、少しだけ安心した。

あとがき
「パラソルをさして」の補足ストーリーを考えてみました。
真美さんも真美さんなりに、色々と心配したんではないかな、と思いました。

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