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マリみてSS「Perdita」

お題:「マーガレットにリボン」より「フィレンツェ煎餅を買いに」(2022/08/06)

―いい。あなたはのめり込みやすいタイプだから、大切なものができたら自分から一歩引きなさい。

普通の学校生活を送りたい。そう思って過ごしている大学生活も、これはこれで楽しいものであった。
高等部にいた頃は、私には栞と出会うためだけの場だと信じていて疑わなかった。
あの頃の私は、栞との関係が壊れないものだと思っていて。
いや、もしかしたら、壊れてしまうことを恐れて。
そのくせ、壊れてしまったら立ち直ることもできない無力な存在だった。

「早くノート書き写してよね。待ってる身にもなってちょうだい」
加東さんの声が現実に引き戻す。これから試験のある身なのだ。試験範囲は抑えておかなければいけない。
「へいへい」
真っ直ぐで、整理されてて、几帳面。
きっと蓉子のノートも、こうなっているのだろうなと思った。
(でも…)

夏の雨の日。祥子と祐巳ちゃんの関係は崩壊した。祐巳ちゃんは私と加東さんで保護できたが、祥子の方はどうしようもなかった。
後で聞いた話だが、祥子は蓉子に「祐巳に嫌われた」と言ったそうだ。それからの蓉子は手際が良かった。ギンナン王子に送迎させ、校内放送を個人的に使い、強引に祥子と祐巳ちゃんを引き合わせてしまったんだから。
そこからの復活劇は、私が言うまでもないだろう。彼女たちは、立派な姉妹だ。
失敗は、やり直して良い。
それを乗り越えた先に、光がある。
躓いても。
転がっても。
それでも砕けない。
彼女の魂は、何色だろうか。
砕けてしまった私の心は、何色だっただろうか。

「もう、まだなの?」
腕を組み、見るからに「不愉快です」というオーラを漂わせている加東さん。
「このままじゃあ、試験も終わって試験休みになっちゃうわよ」
「そっか!試験休みだ!」

―いい。あなたはのめり込みやすいタイプだから、大切なものができたら自分から一歩引きなさい。

そうですね、お姉さま。
でも、私は一歩踏み込んでみたいと思います。
あの時の祐巳ちゃんのように。

「あのさ、フィレンツェ煎餅を買いに行こうよ!」
全く身が入っていなかったあの時の修学旅行を、今からやり直すのだ。
「は?」
加藤さんは、怪訝そうな顔をした。

失ったものは戻らない。
それなら、失ったところに、新しいものをいっぱい入れよう。
傷付いてでも、強がってでも。
それでも、私はその先にあるものを見付けてみたい。
未来の私が、きっと答えてくれるだろう。

「あなたの魂の色は、何色ですか?」

あとがき
ペルディータ。イタリア語で「失う」という意味だとか。
色々と失った聖さまですが、色々と得たものもあるでしょう。
今後の聖さまに希望があればいいな、と思って書きました。

ペルディータ
分類:シュラブローズ
作出:デビッド・オースチン(英)

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