マリみてSS「Three Primary Colors」

お題:ハロー  グッバイ(2022/09/28)

良いものを見られたな。
と、素直に蓉子は思った。
自分の曾孫も見られたし、メインディッシュの由乃ちゃんの姉妹成立式も面白かった。
自分が卒業する前に見た、弱くて支えていなければならないような、そんな祥子はいなかった。
立派に紅薔薇さまをやってのけてみせた。
「だから、私は満足」
妹たちの卒業式を見届けたあと、なんとなく帰りづらくなって、私は意を決して聖と江利子を喫茶店へと誘ったのだ。
今更、何を緊張しているんだろう、と自分にツッコミを入れた。
少し前までは、そんな事に何も気を使うことなんてなかったのに。
一年という歳月は、私達を離してしまうには、充分な月日だったのかもしれない。
「ま、楽しかったよね」
今回呼びつけた張本人である聖も、そう言うとブラックコーヒーを啜る。
口足らずなのは相変わらずだったが、まさか人を誘うのに言うに事欠いて、卒業式に参加しようだなんて。
とはいえ、蓉子も、なんとなくそんな予感はしていたから、それなりに気を遣った服装にしたつもりだ。
まあ、本題は由乃ちゃんが江利子に妹を紹介するということだから、それは無事達成されたわけで。
「待った甲斐があった、ってものよ」
紹介された本人は、至って満足そうだった。
曰く「まさか中等部の生徒を妹にするとはね」と。
そう言って窓の外に視線をやり目を細める江利子。
この感じでは、どうやら色々感情が含まれていそうだ。
沈黙。
「私達…」
なんだか耐えられなくなって、口を開いた。
「また、会えるわよね?」
私のこの言葉に、二人は顔を見合わせて。
笑った。
しかも、微笑みとかではなく。
大爆笑だ。
「蓉子ったら、何言っちゃってんのよ」
私自身、柄にもないことを言った自覚はある。
でも、だからって、そんなに笑うことはないじゃないの。
「で、どうなのよ?」
ちょっと言い方がぶっきらぼうになってしまう。
しかし、茶化されるのは好きではない。
「決まってんじゃない」
聖も江利子も、目を丸くして言った。
「会えるに決まってるでしょ」
「蓉子が望むなら、ね」
そっか。
一つ安心すると、私も紅茶を口にした。
「いやあ、でも、正直なんだか緊張したよね」
「あら、自分の卒業式では居眠りしていた人が?」
「違うよ、この三人で会うの」
「それはあるわね。だから、蓉子が誘ってくれたのは、助かったわ」
なんだ、緊張していたのは自分だけじゃなかったんだ。
一年という歳月は、確かに私達を引き離してしまったけれど。
「ねえ、大学ってどうしてるの?」
また、近付いていけばいい。
「熊男の娘さんから家に誘われてね」
こうして話し合えば。
「蓉子は相変わらず真面目だなあ」
あの時の私達に戻っていける。

紅薔薇さま。
黄薔薇さま。
白薔薇さま。

もう、誰もそう呼ばなくなっても。
きっと、この色が、私達の色なんだ。

あとがき
Three Primary Colors。英語で「三原色」という意味です。
光の三原色がいわゆる「RGB」で、色の三原色が「CYMK」ですね。
このSSは僕がYOASOBIの「三原色」を聞いていたときに思いついたもので、それは英語版の曲名は「RGB」でした。
マリみて世界では3つの大事な色といえば、赤白黄です。
リリアンを卒業されても、きっと薔薇さま方にとっては、大事な自分の「色」なんだと思うんですよ。
という思いで書きました。

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