マリみてSS「前章「さん」付け問題」

お題:「マーガレットにリボン」より「『さん』付け問題」(2022/08/10)

「面白くないですな、江利子さん」
「面白くないですわよ、聖さん」
リリアンに入学して一ヶ月が経った。聖は白薔薇さまのつぼみの妹に。江利子は黄薔薇さまのつぼみの妹に。
そして、目の前にいる水野蓉子は、紅薔薇さまのつぼみの妹に。
それぞれ所属となった。
唯一の外部受験組でありながら、水野蓉子は優秀だった。
生徒会の業務をよく覚えた。
「面白くないですな、江利子さん」
「面白くないですわよ、聖さん」
そんな蓉子をビスケット扉から見ているだけの聖と江利子。
「まったく。名前呼びを教えなかったのに、しれっと適応してくれちゃって」
江利子は蓉子からクラス委員のパートナーに指名されたことに不服だったため、リリアンでの名前呼びを教えなかったんだそうな。
「皮肉で言ったんだけどねぇ…それさえも知った上で、自分のものにされたんじゃあ、お手上げだよ」
聖は蓉子と見学グループにされた時に注意をされたそうだ。また勝手にほっつき歩いていたのだろう。
「同級生に佐藤さん、なんて呼ばれるの久しぶりだったから。新鮮だっただけだよ、蓉子さん,,,,
こうして、リリアン高等部におけるしきたりを知った蓉子さんは、リリアンの社会に順応していった。

「江利子さん?」
「なんですか聖さん?」
「なんとかして、蓉子さんをギャフンと言わせられませんか?」
ギャフンといわせたい、と言うが、あの水野蓉子がギャフンという姿は想像ができなかった。
「じゃあさ、呼び捨てにして呼んでみようよ」
「呼び捨て!?」
「お互い薔薇の館を支える一年生仲間なんだから、親密になりたいんだよ」
「それ、蓉子さんに通じつるのかしら…?」

我々は想定されるであろう蓉子さんのリアクションを考えた。そして、それら全ての回答を頭に叩き込んだ。
そして…
「蓉子さん」
ニッコリと笑顔を浮かべる江利子さん。
「私達、山百合会を支えていかなければいけない一年生よね?」
「まぁ、そうですけど」
「じゃあ、結束の証として、私達は名前だけで呼び合おうじゃないか」
蓉子さんはキョトンとしていた。
そうそう、それだ。
完璧な水野蓉子では見られない、慌てぶりを私達に見せてくれ!
「分かったわよ。聖、江利子」
「「…は??」」
あっさり。
「小学校の頃は、中のいいクラスメイトはみんな呼び捨てだったから、こっちのほうが楽でありがたいぐらいよ」
こんなにあっさりと受け入れられたのでは、私達の楽しみがないのだが…
でも。
「聖」
「江利子」
「蓉子」
お互いが、お互いの名前を呼ぶ。
なんて、素晴らしいんだろう。
「なんか、想定と違ったけど、これは面白いわね、聖」
「じゃあ結果オーライ、って事で、江利子」
私達はいずれ薔薇さまになる。
紅薔薇さまロサ・キネンシス白薔薇さまロサ・ギガンティア黄薔薇さまロサ・フェティダ
そうなっても、私達はこの名前がある。
薔薇さまでなくなれる名前。
私達三人が、三人でいられる名前がある。

あとがき
さん付け問題。
本編では、令の勘違いと聖さまのイタズラ心から呼び捨てで呼び合う祥子さまと令さま、結局さん付けのまま呼び合うことにした祐巳と由乃と志摩子。
今回は蓉子さま世代が呼び捨てで呼び合うキッカケがあったのかな?という思いから創作しました。
共学出身の蓉子さまは、アッサリ馴染みそうかな、と。
逆に狼狽えるバージョンも面白そうではありますね。

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