マリみてSS「タガイチガイ」

お題:山百合会(2023/05/10)

あの頃。
”つぼみ”でありながら。
集合体としての”薔薇さま”になる程には。
お互いのことを何も知らなかった時代―

「…は?」
私と江利子は、お互いに顔を見合わせて言った。
この人は何を言っているのだろうか。
私はその頃は他人に興味はなかったし、江利子はやる気がなくて。
そんな私達に向かって、蓉子は言ったのだ。
「世界を変えませんか?」
って。

「…は?」
私と聖は、お互いに顔を見合わせて言った。
この人は何を言っているのだろうか。
私はその頃は何をするにもやる気がなくて、聖は自分以外の何者にも興味を示していなかった。
そんな私達に向かって、蓉子は言ったのだ。
「世界を変えませんか?」
って。

「…は?」
聖と江利子はお互いに顔を見合わせて言った。
こいつは何を言っているのか、と顔に書いてある。
聖は誰に対しても心を開かず、江利子は世の中を面白く感じず過ごしていた。
私はそんな二人に向かって言ったのだ。
「世界を変えませんか?」
と。

「何を言い出すかと思ったら」
聖は冷ややかな目で私を見た。
「そうよ。私は変えたいの」
その視線に臆することなく、私は答えた。
「それは御大層な夢ね」
珍しく江利子が聖に同意する。
「御大層?そうかしら?」
私は言った。
「より良く変えられるべきなら、変えたほうが良いと思わない?」
「それはそうね」
頬杖をつきながら、微塵も賛同の気持ちのない声で江利子が答える。
「いずれリリアンを背負っていく私達が、こんなのでいいの?」
聖が鼻で笑う。
「知ったことじゃないよ」
「全生徒の見本になるべき存在なのよ?」
「蓉子さんは意識が高くて結構なことね」
皮肉と嘲り。
違う。
「そうじゃないの」
私が伝えたいことは、そんなことじゃない。
「私達も、なりたいじゃない。お姉さま方のように」
聖の眉が動く。
江利子は頬杖を解いた。
「聖人君子になれなくていいのよ。ただ、お姉さま方みたいになりたいのよ」
私達は、リリアンを導きたくて山百合会に入ったんじゃない。
ただ、お姉さまに惹かれて、手を取られ、導かれてきただけだ。
あの人達はどうだろう。
偉ぶることなく、お互いを理解し合っている。
私は聖の元へ歩みを進めた。
「まずは聖さん。あなたは、もっと私達を信頼してもらいたいわね。閉じこもってても何も変わらないわよ」
「…はい」
私の迫力に当てられてか、目を点にしながら答えた。
私は次に江利子を指差す。
「次に江利子さん。あなたはもっと人生を楽しむべきね。今のままじゃ楽しくないでしょ」
「…はい」
江利子も聖に倣うようにして返事をした。
「それにしても蓉子さん、よくそんな恥ずかしい台詞を言えるわね」
「そう?恥ずかしくなんてないわ。それに…」
「それに?」
「見てみたいじゃない。互い違いの私達が、変わっていくところを」
聖が皮肉っぽく笑う。
「それが見れたら、傑作だね」
「そう?私には見えるわよ」
今の私達は、お姉さま達には遠く及ばないほど互い違いだけど。
あの人達みたになれたら、なんて素敵だろう。
「そうなれたら、素敵かもしれないわね」
江利子はそう言って、軽く微笑んだ。

「―なんて言ってたっけね、蓉子ったら」
あれから一年。
聖と江利子は私の話をネタにして笑い飛ばしていた。
「まるでミュージカルだったわね」
この二人には情緒とか、そういったものはないのだろうか。
まあ、そんなところも、私達らしい。
「でも、見れたでしょ?」
「まぁ、ね」
卒業まで間もなく。
こうやって三人だけで会う機会ないて、もうないかもしれない。
それでも、私達の中には、確かにある。
互い違いの中から生まれた、固い誓いが。

あとがき
これは緑黄色社会の「Don!!」という曲を聴いて思いついたSSです。
ちょっと蓉子さまがお説教臭くなってしまいましたね。反省したいです。

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