マリみてSS「Ready made」

お題:「フレームオブマインド」より「不器用姫」(2022/06/01)

「本当に、いいの?」
後悔。
後悔?
やめて。
黙っていて。
塞ぎ込んだ黒い感情が爆発しそうで。
私はそれを押し留めるのに必死で。
「いいのよ」
ほら、無理矢理にでも笑えば、感情は後からついてくる。
「私が望んだんだから」
今は、なんてことないふりをしていることが大事なのだから。

それならいいけど。
そう言って、蔦子さんは私に写真を手渡して去っていった。
放課後、藤組を訪れた蔦子さんの顔は、あまりいい顔をしていなかった。
そりゃあそうだ。
自分の負け戦を撮影させて、現像させて、持ってこさせたのだから。
その場に居合わせた蔦子さんも、いい気はしなかっただろう。
でも、あの時あの場所に蔦子さんが来てくれたことはありがたかった。
能天気だったあの時の自分が、あの場面で一人でいるなんて、想像するだけで恐ろしい。
茶封筒に入れられたそれは、外からは中を窺い知ることはできないけれど。
いけない。
後ろ向きになってはいけない。
前向きになりたくてあの時写真を撮ってもらったのに。
私は茶封筒を鞄に仕舞うと、学校を後にした。

部屋に戻ると、茶封筒に入れられたそれは、私の中で重くのしかかってきた。
確かにあの時は、前向きになりたくて写真を撮ってもらったのだけれど。
飾る気にもならないし。
かといって捨てる気にもならないし。
蔦子さんはあの時私のことを「不器用」と
言った。
器用だったら、今のような事態になっていなかったのだろうか。
机の上に無造作に置かれたロザリオを握りしめる。
購買部で買った既製品のロザリオは、今はもう輝きを失って見えた。
ロザリオは私の気持ちを届けるための入れものに過ぎない、だなんて。
全くもっておめでたい。
私の気持ちなんて、届きやしなかったじゃないか。
大学の購買部で手っ取り早く入手したからいけなかったのか。
いっそのこと手作りでもすれば結果は変わっていたのだろうか。
いや、違う。
ロザリオのせいにしなくたって、現実は変わらない。
リボンはもう返してしまった。
私とミケを繋ぐものは、もう何も残っちゃいない。
(友達の力を借りなくても、ちゃんと言えるじゃないの)
違う。
こんなことが言いたかったんじゃない。
そんな出来合いの言葉を言いたかったんじゃない。
後悔。
後悔?
そんなの…
「今更、遅いわよ!」
衝動的に放たれた、既製品のロザリオが叩きつけられ宙を舞う。
行き場を失ったロザリオと。
やり場をなくした私の心がー

あとがき
レディメイド。「既製品」という意味の言葉です。
前向きに終わった本編に対抗して、こういうやりきれない終わり方もあったんじゃないかな?という、僕のひねくれ心から作りました。
Ado氏の同名の曲からインスピレーションを得て書いたSSです。
本来、高校生だと、これくらいの激情は持ってるんじゃないかと。
あくまで陰キャのはねおかの解釈、ということで(笑)


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