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レトロな『家庭の医学』。

現在、両親亡き後の実家を片付け中の私。

衣類や雑貨(碁石やゴルフボール、デザイン業をしていた父の画材のうちスプレー缶や謎の溶剤なども)の処分に苦戦しつつ、本棚は比較的整理がしやすい場所で着々と進んでいるのですが、中には「古書店に売る」「処分する」「保管する(自分がもらう)」の、どれにも当てはまらない「保留中」が出てきたりもします。

その本は、2001年(平成13年)発行の『すぐに役立つ家庭の医学 ホームドクター』(緑樹出版)。

平成13年発行の本なのに、表紙をめくってすぐに【主な寄生虫一覧】から始まるとか、発行当時使われていたはずの「熱中症」という言葉が載っておらず「日射病・熱射病」とあるとか、レトロなイラストの女性の髪型などから、元々原稿の大半の部分は1970年代頃のものではないかと想像しています(一部、後から項目を付け足した模様)。

レトロ感は再現できていませんが、載っている内容はこんな感じ。

巻頭カラーの「家庭救急箱にこれだけは備えたい」というページには、昭和生まれの私にとっても「え、何コレどういうもの?」と謎の常備薬が多いのです。以下、本文説明より抜粋、または自分調べの用途を。

食塩…食中毒など(医師にかかるまでの間か軽症な時)の時、コップ一杯の温水に食塩小さじ1〜2杯をとかして服用し、内容を吐かせる。

重曹…フグ中毒の時、フグ毒はアルカリに弱いので重曹を内服する。他に胸焼け、げっぷ、食欲不振の時に一回につき1〜2g(1g=茶さじ半分)、1日に3〜10g服用。喉が痛い時、風邪の時はコップ一杯の水に1gを溶かしてうがいに使う。やけどや虫刺されには水で泥場に練って塗ってもよい。

ブドウ酒…満員電車や映画館などで倒れるのはたいてい脳貧血なので、頭を低くし足を高くして寝かせ(吐き気がある時、頭は横向き)、意識が回復したらブドー酒などを飲ませる。

逆性石鹸液…(通常家庭で使う石鹸とは逆の性質を持ち)、刺激が少なく生体に対する毒性の低い「逆性石鹸液」(陽イオン界面活性剤)は手指消毒や食器の消毒などに。

消毒用アルコール…手指、皮膚の消毒に使用。

チンク油…肌の炎症を抑え、保護する。擦り傷、やけど、湿疹、皮膚炎などに。

ヒマシ油、オリーブ油…例えば嘔吐後にヒマシ油を与えて安静にする。もし豆などを子供が耳に入れた時はオリーブ油を少し垂らして下にして休ませると出てくる。やけどの傷の面にぬってもよい。湿疹の予防にワセリンやオリーブ油を塗る、または浣腸の際に潤滑油としてワセリンかオリーブ油を塗るなど。

オキシフル…うがい(風邪などで喉が痛い時、埃を吸い込んだ時)の際は水で10倍に薄めて使用。傷口の消毒や、血、膿の除去には3%の水溶液にしてガーゼに浸して傷を拭く。

ヨードチンキ(ヨーチン)、マーキュロ(赤チン)…切り傷、かすり傷、皮膚の消毒に。ネズミや犬に噛まれた時に薄い液を塗る。犬に噛まれた場合は狂犬病の恐れがあるので必ず飼い主を訪ね、予防接種が住んでいるか書類を見せてもらって確認し、医師の手当を受けること。

…魚の骨を飲み込んだ時、薄めた酢でうがいすると骨が柔らかくなり取れやすい。

アンモニア水…毒虫に刺された時に。

一方、現在はどんなものが常備薬とされているのかをサクッと調べたら、こんな感じ(一部)。

本に掲載の常備薬一覧と比べて、用途がはっきりわかりやすい商品が増え症状別に細分化されたり、花粉症や皮膚炎などアレルギー反応に関わるお薬やパソコンやスマホなどで目を酷使する人への目薬が充実したり、時代とともにニーズに応じたお薬が出来てきたんだなと。使い勝手も非常によくなった印象です。

昔は軟膏や湿布薬を塗ったガーゼを油紙で固定して包帯を巻く必要があり大がかりだった行為も、今はペタッと傷パットや湿布を患部に貼れば済むし、大量の氷が必要だった氷枕や氷のうも今では貼るだけの冷却ジェルや冷凍庫で冷やして繰り返し使える「保冷枕」などで手軽に用意、使用できるようになったわけですね。

変わらないのはオロナインやメンソレータム、イチジク浣腸などでしょうか。逆性石鹸液や消毒用アルコール、医薬品ブドウ酒、ヨードチンキなども普通に売っており、重曹は今はお料理よりお掃除に使う場面が増えた気もしますが、重曹については昔ながらの「常備薬」としての使い方(うがい、酸を抑える胃腸薬)も頭に置いておきたいです。

私の場合、虫刺されのアレルギーがあり(普通の蚊でも腫れて化膿することがある)強さと配合成分の違う軟膏類を複数常備、そして市販の整腸薬と消毒薬、日焼け・二日酔い用のビタミン剤(ハイチオールC)があるかないか、くらい。〈やけど・しもやけ・化粧落とし・乾燥対策〉などにはすべて馬油一本で済ませ、補助として白色ワセリンも常備しています。風邪や疲労、冷えなどには漢方薬を、不調の時に「せんねん灸」や精油を使う感じです。
持病の痛みの対処に、医師の処方の鎮痛薬も欠かせませんが、基本は和洋の自然薬がメインです。

『心と体にもっとやさしく深く効く!自然のお守り薬』(永岡出版)によると、基本のハーブは5種、基本の精油は6種紹介されているものの、そこまでは揃えられないので、個人的にはハーブ(ハーブティーとして摂取)ではローズヒップ+ハイビスカス、時々カモミール、精油ではラベンダーとティートリー、ユーカリ、それに最近はエキナセア(免疫力を高める効果、体力アップに)も時々摂っています。

さて、昭和感満載の『家庭の医学』の本をパラパラとめくっていてしみじみ思うのは、「時代の流れとともに、いろいろなことは変化するし、一度進んだ時代は、元に戻すことはできないのだなぁ」という、ごく当たり前のことでした。

寄生虫や伝染病への心配が当時より和らいだ一方で、化学物質やアレルギー疾患、難病など、これだけ医療が進んでも治療や対策、原因特定に時間を要するものが増えている今日。昔が良かったとも、今が良いとも言い切れないのですが、「何れにしても昔には戻れないし今を生きるしかない」ということだけは確かだなと。

何も薬に限った話ではなく、ケータイ・スマホのなかった時代に戻ることはできないし、最近、お店に入って水を自分で入れに行き、注文はタッチパネルで…という場面が増えたのは少し不便だし味気ないし、次々に書店が閉店するのは残念ではあるけれど、どんな業種でも「今は今なりに何とかしよう」と創意工夫したり、無理のないペースで活動しておられるお店や個人に出会うと嬉しいし、自分も、時代の波にはうまく乗れなくても、選ばれた一部の人だけが発信できる時代ではないおかげで、こうして思ったことをネットの世界に小舟を浮かべて誰かに届けることができる状態は、面白いことだなと思います。

私は古書店で本を探したり、ネットや図書館で古典資料を見るのも好きですが、昔のものがいい、昔は良かった、というより、今とは違う時代の暮らしや考え方に触れることで、近すぎてよく見えない今を冷静に俯瞰できるのがいいなと思っています。特に、世の中(国内外)のニュースに触れる機会が多いと色々静かに、確実に、絶望するしかない毎日なので、その度、今のものではない読み物に触れると、何だか自分の視界がふわっとドローンみたいに浮きあがるような気がするのです。

うまくスキャンできなかったのですが、私が気になったページがこちら。『すぐに役立つ家庭の医学 ホームドクター』(緑樹出版)より。もうちょっと保留にして時々中を開くことにします。