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ZINEを作る。

雑貨も置いているような書店で、近頃よく目にするZINE。リトルプレスという方が自分にはしっくりくるのだけれど、それは、私が『リトルプレスの楽しみ』(柳沢小実著/ピエブックス2007)という本を持っているからかもしれない。

同じ著者・出版社の『フリペの楽しみ』という一冊とともに、主にデザインの仕事の参考や、たまに息抜きに眺める事もあったけれど、自分でおしゃれな本を作ろうと思うことは、あまりないかなぁ…

読むのは好きで、リトルプレス、あるいはZINE、ミニコミ、フリーペーパー、同人誌など呼び方はともかく、今、本棚にもいくつかあって、

左上から時計回りに『イモヅル』(藤田一樹2017/恵文社で購入)、『幻の特撮スーパーヒーロ列伝』(タイム・トンネルvol.18、2010/神田古書センターのどこかで購入)、『気楽な稼業』(山川直人2017/タコシェで購入)、『もたいたけし文庫6 かざりえ傑作選』(茂田井武・絵1998/トムズボックスで購入)。個性的な本屋さんで買った本やリトルプレス、フリーペーパーなどは、店だけでなく、その時の状況まで案外克明に記憶しているものですね。

続いて左から時計回りに、『こけし系図/第七版』(コチャエ2018/誠光社で購入)、『さんむし文庫vol.2』(さんむし文庫編集部/発行年不明/おもてなしラボで購入)、『時をかける父と、母と』(あまのさくや2019/あまのさんの個展・ギャラリー山小屋で購入)、『大阪おもろいもん歌』(中川貴雄/裏面は『おおさかたこやき手ぬぐい』サタケシュンスケ/発行年不明/にじゆらで購入の手ぬぐいについてきたオマケ)。

あまのさんの作品はnoteで連載されていたもので、お母さんが癌に、お父さんが若年性アルツハイマー型認知症になられた経緯など、少し自分と似ているためネット上ではどうしても冷静に読むことが出来なくて、でも本を買って帰りの新幹線でページを開くと、内容が「フワッ」と羽毛のようにこちらに届くようで、「ああ、紙の本で読むのっていいな」と改めて実感しました。

そんな中、自分が作ることにしたのは、こんな本(試作段階)です。

『レッツおみくじー元三大師みくじの世界』

上に挙げた『こけし系図』と同じ印刷会社(レトロ印刷JAMさん)で作ろうと思っていて、おそらく【にじゆら】さんのオマケ冊子もそうだろうと思うんですが、本文ページのざらっとした手触りや印刷のにじみやかすれ具合などに味があって、裏面の絵や文字が透けているのも、どこか懐かしい感じ。

ことの始まりは3月。

友人らと深大寺でおみくじを引いて、二人が凶で、残りの一人が小吉か何かだった時のこと。深大寺で授与されるおみくじは『元三大師みくじ』(お寺でよく目にする形式のもの)で、私は以前からそのおみくじに興味があり、自分でアレンジした『はにほみくじ』というものを自作したこともあった(過去記事→「おみくじを作ってみた」「おみくじを、さらに作ってみた」)ので、友人らに「おみくじに詳しいだろうから、なんて書いてあるか解説して」と茶屋で頼まれまして。

たまたま前日に取引先に顔を出した関係で、名刺代わりに自作の『はにほみくじ』を全種類用意してカバンの中に入れていたので、残りのおみくじから友人と自分の引いた番号を探して、それぞれ見比べてもらうことに。

たとえば自分が深大寺で引いた17番凶と、それに対応する『はにほみくじ』の17番を並べるとこんな感じ。

自作のおみくじでは、内容は踏まえつつ凶を「末吉」などに変更しているので、本家の『元三大師みくじ(観音籤)』をそのまま解説するものではなく、また『はにほみくじ』は、いろは順に作成しており全部で47番までしかないので、そもそも百首(100番まで)全てに対応できないのです。

その時、友人が「おみくじ全部の内容の解説がある本作ってよ」と何気なく口にした(発言した本人はおそらく忘れていると思う)ことが耳に残り、「それもそうだな…凶を引いてがっかりする人や、結局はどういう内容なのかピンとこない人に、分かりやすく伝えられて、あるいは誰もがいつでも気軽に百首の詩の意味を調べられる〈みくじ本〉があればいいよなぁ…作ろっかなぁ、よし、作るぞ」とその晩には決意したのでした。

その後、古書店でとりあえず入手できた『御鬮判断鈔 全』(井上勝五郎 1891)の綴じ糸を解いて挿絵をスキャン(ここに載せるにあたり、画像に編集を加えています)。

くずし字が読みづらいので、テキストは国会図書館デジタルデータからダウンロードした『開運 みくじ独占ひ(みくじ付)心霊会占考』(心霊会同人編 文章堂 1915)から引用することに。

これらを組み合わせただけでは【おみくじ解説】にならないので、研究者の文献を参考にしたり他のみくじ本などと見比べて修正や変更を加え、易のことや語句の意味を調べたりしてから現代語にして自作イラストを加えて…

中綴じ製本で表裏面に8首載せる形にして、確認用に自宅で仮製本してみたのがこちら。

おみくじに紹介文や付録等を加え、本文は計60頁。中綴じにしたのでファイルは15点で済みました。

中には、あまりにも救いのない、どうしようもない凶があるので、それを引いた人(時)のために何か和める要素を加えくて「当世風テキトー解釈」として私見を載せました。

試し刷りを経て本番の入稿をして、少し時間は空きますが11月にオープン予定の自分の店で販売予定です。(追記:お店は2021年11月末に閉店しましたが、展示会などに出展するなど活動は続けています)

同じく11月に文学フリマ(11/24、会場:東京流通センター)に出店して展示販売します(出店名:ハニホ堂)。昨年作った『はにほみくじ』等も持って行きますのでお時間あればぜひ。おみくじ本に興味ない方も、会場では人気の作家さんや魅力あるリトルプレス・ZINEに出会えると思います。

そして帯はこんな感じ。

「おみくじの意味が解らない、内容が悪すぎてツラい、挿絵が謎。そんなあなたに捧ぐ、【元三大師みくじ】全100種(首)掲載のみくじ本。」

帯の折り返し部分にも、せっかくなのでおみくじをつけました。A3寸延に横長の帯を縦に5つ並べて、本文は同じでおみくじ部分だけを変えてオンデマンド印刷して自分で裁断するので帯おみくじは全5種類です。

さて。江戸時代以降、大量に出回った〈みくじ本〉をいくつか見ると、かなり内容に幅があり誤字等もあって、驚くほどゆるい作りのものが多くて。そういった部分や挿絵の変な感じも私の好きなところです。ただ、本来論文であれば、都度出典(引用元等)を示すべきところを、紙幅の関係と読みすさを考慮して簡略化したので、その点(不正確性)については数カ所に明記しました。

今回の件には関係のない話ですが、ここ数ヶ月、私は宝塚の男役スターさんの退団を陰ながら見守り公演に足を運び(現時点でその日まで残りわずか。あとは映画館のライブビューイングで見届けるのみ)、新たな引っ越し先(&店舗付き物件)を探して各地を旅しつつ、同時にこの本を作るために観音さまのお告げとされる漢詩(籤詩)100首を何度も見ながら過ごしてきました。宝塚のスターさんの退団は、多くのファンの方と共有できる大きな出来事ですが、お店をすることとか自作の本の完成は、誰も待っていないし期待もされていない中「自分がただ勝手にやっていること」なので、よくここまで根を詰めてやるなぁ…と自分でもびっくりです。

選挙も近く、社会のことをいろいろ考えたりもするのですが、それとは別に、個人的に、自分以外の人が今しんどい思いをしていたり大変な状況にあり、それなのに自分にはどうにもできないという事実があって、自分だけが呑気に好きなことしていいのかなと思う落ち着かなさをとても感じます。他者の苦しみを自分が成り代わってどうにかすることは誰にもできないので、自分に今もこれからもできることは、どんな時でも楽しみを見つけて全力で自分の人生を味わうことが、先に亡くなった人や、今苦労している誰かや、神仏になのかわからないけれども、全てに対しての敬意表明になるのかなと、そんなことを思いながら本を仕上げようとしているところです。