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家で過ごす。

新しい年が始まりました。
年末、隣の駅の大きめの文具店は大勢の人で賑わっていて、年賀状づくりのための版画板を探す人、孫のためのキャラクター文具をその場に居合わせた客同士で「うちは4年生で」とか「女の子はこういうのがいいかも?」などと盛り上がりつつ選ぶ人々、お年玉用ぽち袋を買う人などの様子に、〈自分は年賀状も出さなくなったしもらうこともなくなったし、両親が亡くなって親戚付き合いもほぼ無いし、帰省しなければきょうだいにも会わないし、普段通りだなぁ。むしろ年末って普段よりちょっと寂しいような気がするなぁ〉と、ほんの少ししみじみしつつ、耐水性のペンを買って帰ってきて、こんな絵を描きました。
ミツバチの家。

随分前に秋山あゆ子さんの漫画①「虫けら様」(私の持っているのは青林工藝舎の単行本2002初版2007第3刷)に出会ってミツバチやアリの生活(人生、というか虫生)に感心して以来、何度も読み返したり、数年前に古本として買った『昆虫の図鑑』(小学館 1956初版発行/1972年版)の「こん中の社会生活」(とくにベッドで眠る幼虫の世話をする様子)のページを見て、「わぁかわいい〜」と心をつかまれたりしていたものの、ただ眺めるだけで。

それが年末、ぽっかり時間が空いて、子ども時代に戻った気分でお絵描きして水彩色鉛筆で塗りました。
一枚の画用紙の上で完結させてパソコンでほとんど加工はしていないけれど、昭和の絵本のようなレトロな紙の色だけ、上から重ねてみたりして。

図書館で②『ミツバチの絵本』(吉田忠晴 編/高部晴市 絵/農文協2002)、③『ミツバチ』(栗原慧 写真/日高敏隆 総合監修/リブリオ出版2007)を借りてきて、ミツバチの巣箱や自然の巣の様子を見て、〈巣全体のうち中央の部分が幼虫を育てる部屋、その周りに花粉貯蔵庫の部屋、さらに外側にはちみつ貯蔵庫の部屋〉という構造を参考に階層を分けてみました。女王バチは1つの巣に1匹だけいて、毎日1000個以上のたまごを産み、巣が大きくなると、新しい女王バチになる特別な幼虫を育てる王台が巣の下に垂れ下がるように作られる、ということで地下にロイヤルベビーの部屋を作りました。
一つの巣には数万匹のミツバチが暮らしているものの、ほとんどは働きバチ(メス)で、オスは数百〜千匹。
秋山あゆ子さんの漫画①でも「男の兄弟は何もせず、一日中家の中でぶらぶらしている」と紹介されているように、オスたちは働かず姉妹たちから食べ物をもらってのんびり過ごしているものの、4月下旬から6月中旬の毎日、午後に出かけて色々な巣から集まるオスたちと生まれて羽化したばかりの新女王バチを待ち、そこで交尾する唯一の大仕事があるのだとか(③より)。

絵の中で、オスバチとその姉妹の働きバチは描き分けていないものの、ゴロゴロしたりはちみつジュースを飲んで「遊んで」いるのがオス、幼虫の世話をしたりお掃除したり補修工事などしているのがメス、という感じで描いてみました。本当はゴミ捨て(交尾できずに巣に戻って居候を続けるオスに秋以降は食べ物を与えないので餓死すると、オスも巣の外に捨てられる/③より)の姿も描くつもりだったけどスペースの関係で割愛。
生まれ変われるものなら、私は働きバチになりたい。

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年が明けて、二日からは知り合いの方の留守宅で猫シッターをするため、自宅を離れて普段、いるはずのない場所で過ごしていました。
室内全体がギャラリーのようで(私の好きな南伸坊さんの作品などもさりげなく展示されていたり)、かつ味のある旅館のような美しさと居心地の良さがあり(窓から庭が見えて、こたつがある)、それでいてDVD類が充実していて飲みものや食べ物も用意されておりホスピタリティに溢れていて、そんな空間で高齢の猫と数日間過ごすうちに、雨降りの寒い日はあまり動かなくて晴れてポカポカしている日はベランダに出て活発に動いたり、日のあたる場所でじっとしていたり、かと思うとブラッシングをして欲しがったり、同じ家の中で過ごすにしてもこんなに気候によって過ごし方が違うんだなとか、最初は警戒していたのに最終日には向こうから近づいてきたりして随分変化があるものだなと、新鮮な驚きとともに心が何かあたたかなもので満たされました。
無事にご家族が戻り、役目を終えて自宅へ戻ってきて、今日から平常通り仕事を始める-つもりが今はまだアイドリング状態、でここを書いています。

お正月には初詣に行かずでした。
いつもは自分や家族の健康と商売繁盛をお願いするのですが、今は被災地や遠い国の戦地で大変な思いをされている方、それ以外でも家や仕事を失い、あるいは人権を尊重されず苦しい思いをしている方に、あたたかな食べ物と安心な居場所、心が落ち着くような優しい何か、希望を持てる何か、救援、物質・精神面両方の支援が届くことを祈っています。私も少しずつできることをしてゆきたいです。

2024年の年賀状は人に頼まれて制作したものの、自分からはほぼどなたにも送らなかったので、こちらに画像を載せてご挨拶にかえます。

ここをご覧くださった方にとっても、どうかよい一年になりますように。
知り合いでも、そうでなくても、1日1日、同じ時代を生きるあなたへ。