マリッジ・ブルー

  白のチューリップを持つ藤山麻衣子(26)と手桶と柄杓を持つ岸田圭輔(27)がお墓の階段を上る。
お墓の前にしゃがみ手を合わせる麻衣子と圭輔。
× ×    ×  
麻衣子、桶を洗っていると目の前で幼い女の子が転び手を差し出す。
少女 「(目に涙をため)ありがとうございます。あの、うさぎさんの、みてませんか?」
麻衣子、笑って耳に手を当てながら
麻衣子 「んんっ、ふんふん、そっかぁ」
少女、首を傾げる。
麻衣子 「ウサギさんね、あそこの大きな木の影で休んでたんだって。行ってごらん。」
少女、麻衣子が指差した木に向かい走る。
圭輔、ペットボトルを二本持ちやってくる。
少女、笑顔で木の下でうさぎのぬいぐるみを上げ麻衣子に向かい大きく振る。
圭輔 「麻衣子、どうしたの?」
麻衣子、振り向く。
麻衣子 「ううん、ちょっと話しただけだよ。お茶、ありがとう。」
1. 2. 焼き鳥屋(夜)
麻衣子、圭輔、三束樹(27)、サークルメンバー(男:2 女:2 計:4人)がビールジョッキを片手にテーブルを囲んでいる。
樹、おどけた表情で、
樹 「(わざとらしい咳払い)それでは、俺の愛すべき親友であり我らが映画サークル元部長圭輔と彼を支え続けたまいちゃん!結婚おめでとう!乾杯!」
サークルメンバー、ジョッキを掲げ樹に続ける。
           × ×    ×  
テーブルに空ジョッキと食べかけの焼き鳥。
圭輔、顔を机につけ寝息を立てる。(時々よく分からない寝言。)
樹、ふらつきながら麻衣子の横に座る。
樹 「まいちゃん、本当にありがとう。こいつもさ、失恋ずっと引きずったり、あんなこともあって……、どうなるかと思ったけど、でもさ、(圭輔の頬を指で突き)こうやって幸せそうだし、まいちゃんと出会えて本当によかったよ」 
麻衣子 「失恋……?」
樹 「そうそう、あいつには特別な人だったみたいだよ。えっと確か……、紗凪さん?だっけ……?」
1. 3. 圭輔と麻衣子のアパート・寝室                     
麻衣子、携帯を耳にあてながら入ってくる。
麻衣子 「そう、式で使う写真。うん、アルバム?(ベッドの下からアルバムを引き出しながら)あった。ありがとう。はーい。」
電話の切れる音。
麻衣子、アルバムを持ち立ち上がる。
学ラン姿の圭輔と 紗凪が映った写真が床に落ちる。
麻衣子、ゆっくり拾い上げ、不安そうな顔。
麻衣子 「圭輔の特別な人……?(ため息)圭輔の過去も見えたらいいのに……。」
1. 4. 駅前カフェ・昼
麻衣子と戸田律夏がケーキを食べながら話している。
麻衣子 「……ってことがあってね、ねぇ律夏~どう思う?」
麻衣子、ため息をつきフォークを置く。
律夏 「どうって、何が。今更、そんな圭輔君の過去気にしてたってしょうがないでしょ。だいたい今日は旅行の計画のはずでしょ。」
麻衣子 「でも、気になる…」
律夏 「そんなに気になるんなら、その紗凪さんって人に会って過去見ちゃえば?圭介くんの見れないんでしょ?まぁ、冗談……」
麻衣子 「それ、いいかも……!決めた、私、彼女のこと探す。お願い、律夏も手伝って」
麻衣子、手を合わせて律夏を見つめる。
律夏 「でもだいたい、どうやって。探すあてなんか……」
麻衣子、笑顔で律夏を見る

1. 5. ロンドン空港
キャリーバックをひく麻衣子と律夏
律夏 「こんな偶然ある?でも麻衣子との独身最後の女子旅が紗凪さん探しになるなんてねっ」
麻衣子 「ごめんね律夏。私も、まさか旅行先と紗凪さんの職場が同じところだって知って最初驚いたの」
律夏、眉をひそめて
律夏 「ところで、麻衣子。どうやって紗凪さんが働いていること知ったの?まさかまたあの力使って…」
麻衣子 「(食い気味に)ううん、使ってません。ちゃんと三束くんに聞いたんだよ~」
律夏 「ならよかったけど…。でももうあの力使わないって言ってたのに紗凪さんの過去を見るの?」
麻衣子、うつむき黙る。

1. 6. フォトスタジオ
住所のメモを持った麻衣子と律夏がフォトスタジオの入り口に入ってくる
律夏 「私、英語で向こうの係の人に紗凪さん何処にいるか聞いてくるね。」
麻衣子 「ありがとう」
麻衣子、壁の展示物に近付き、そこに紗凪の撮った写真とプロフィールを見つけそれを見つめる
× ×    ×
プロフィールのインサート、写真家になったきっかけ:今を大切に生きるため
× ×    ×
麻衣子 「(小さな声でつぶやくように)今を大切に生きる…」
律夏、麻衣子に駆け寄って、
律夏「 麻衣子!今聞いてきたら1か月前くらいに紗凪さんここ辞めちゃったんだって!今は独立して、どこにいるかも連絡先も分からないって!」
麻衣子「 そっかぁ……。ごめんね、ここまで付き合わせたのに。」
律夏 「もういいからさ、切り替えて旅行楽しも!ねっ?」
1. 7. ロンドン・広場・夜
麻衣子と律夏がアイスを持ち歩いている。
麻衣子のアイスが地面に垂れる。
律夏 「(怒った表情で)もう、麻衣子!いつまでぼーっとしてんの?しっかりして!」
麻衣子 「ごめんね」
律夏 「(少し大きな声で)だいたいさ、そこまで過去に拘って紗凪さんの過去を見てどうするつもり?どうもできないでしょ、せっかく2人で楽しもうと思ってたのに……。私、先にホテル戻ってるから頭冷やしてよね!」
律夏、立ち去る。
麻衣子 「(ため息)(呟き声で)切り替えなきゃっ。もう紗凪さんのことは諦めよう……。」
           ×        ×    ×  
麻衣子がホテルで律夏に謝るインサート           × ×  ×
日本に戻ってきて、麻衣子との律夏が手を振って別れるインサート
1. 8. お墓・朝
ひまわりと手桶と柄杓を持った麻衣子が階段を上る。
麻衣子、立ち止まり、紗凪がお墓の前で手を合わせているのを見る。
麻衣子、首を傾げ、紗凪の後ろで待つ。
紗凪、深呼吸をして立ち上がり麻衣子に会釈し、通り過ぎようとするが、すれ違うタイミングで転びかけ麻衣子と衝突する。
× ×  ×
車の強いフラッシュのインサート
× ×  ×
病室でベッドに向かい何かを叫ぶ圭輔とその後ろで立ち尽くし泣き疲れた紗凪のインサート
× ×  ×
麻衣子、驚いた表情をして、向日葵を地面に落とす。
紗凪 「(申し訳なさそうな顔で)ごめんなさい」
麻衣子 「あっ、すみません。(聞こえないくらい小さい声で)あっ、あの……。」
紗凪、もう一度会釈し早足で通り過ぎていく。
麻衣子 「(深刻な面持ちで下を向き、暗い表情になり)紗凪さん……。」
紗凪、急にUターンして息を切らし小走りで戻る。
紗凪 「(焦った様子で)麻衣子さん!」
麻衣子、驚いた表情で顔をあげ、振り返りながら
麻衣子 「えっ……?」
紗凪 「麻衣子さん、ごめんなさい」
紗凪、勢いよく頭を下げ、ゆっくり顔を上げて
紗凪 「信じて貰えないかもしれないけど、私触れた人の未来が見えるの……。私、入江紗凪って言います。圭ちゃん……、岸田圭輔とは小さい頃家が隣通しで、私は優と、圭ちゃんのお兄ちゃんと同級生で高校生の頃からずっと付き合っていたの。」
紗凪、目線を下に落とす。
麻衣子、小さく息を吸い、紗凪を見つめる。
紗凪 「でも私、ある日から圭ちゃんの未来だけは突然見えなくなって(うつむく)……。それで大人になってからは暫くお互いに会ってなかったんだけど、この前共通の知り合いから圭ちゃんが結婚するって聞いて、私、あなたにわざとぶつかったの……。あなた達がきちんと幸せになるのか気になって……。麻衣子さん、私、勝手にのぞくような真似して本当にごめんなさい……!」
紗凪、もう1度深く頭を下げる。
麻衣子 「(声にならない声で)紗凪さん……。あの、私、私も……。」
紗凪、呆然とする麻衣子の両手を取り、上から自分の手を被せるように強く握る。
紗凪 「(目に涙をため嬉しそうな笑顔で)でもね、麻衣子さん、あなた達は幸せになるわ。結婚おめでとう」
落ちた向日葵を拾い上げ、麻衣子に渡し立ち去る紗凪。
麻衣子、涙を流し向日葵を受け取る。

1. 9. 結婚式会場・当日
誓いの言葉のインサート
× ×  ×
結婚式二次会会場と書かれた入口に向かい入っていく人達のインサート
× ×  ×
麻衣子と圭輔が前のテーブルに座っている。
麻衣子と圭輔の横に司会進行の人が立ち、周りはみんな微笑ましそうに2人を見ている。
司会者「 それでは新郎、新婦から一言ずつお願いしたいと思います!まずは新郎の圭輔さん、お願いします!」
司会者、圭輔にマイクを渡す。
圭輔、マイクを受け取り、立ち上がった時に驚いた表情をして一瞬固まり、麻衣子を見る。
麻衣子、圭輔に笑顔を向ける。
麻衣子 「あとで、話すね」
× ×  ×
お墓の前で、立ち去る紗凪を追いかけ、何か必死に紗凪に伝えている麻衣子のインサート
× ×  ×
圭輔、麻衣子の笑顔を見て、落ち着いたよう表情になり、前を向いて小さく会釈する。
会場の後ろ端にいた紗凪、構えてたカメラを下ろし、笑顔で返す。
圭輔 「(真っ直ぐに前を向いて)この度はお集まり頂きありがとうございます。この場で話すのは恐縮でもあるのですが、一つだけ僕にとっては大事な話をさせていただきます。それは僕の兄の話です。僕の兄は、今の僕と同じ歳の頃で、学生時代から長く付き合っていた彼女と結婚を控えた数日前、僕と共に交通事故に合いました。意識をなくしていた僕が目を覚ますと、兄はもうこの世におらず、ただ僕の体中に血を送り出し僕を生かしてくれてるのは兄の心臓だと知りました。僕は兄の臓器の移植したことで、今もこうして生きれています。そして麻衣子と出会えました。僕は叶わなかった兄の分も、愛する人と、麻衣子と幸せな家庭をこれから作っていきたいと思います。」
圭輔、深く頭を下げ、麻衣子にマイクを渡す。
麻衣子 「私は、圭輔の今しか分かりません。でも私にはそれで充分です。ただ、これからは圭輔と一緒に、楽しい時も辛い時もどんな時も二人で(一息付き笑顔で)未来に向かって歩んでいこうと思います。」
笑顔で目を合わせ合う麻衣子と紗凪。
× ×  ×
優しく見守った表情の律夏や樹のインサート
× ×  ×
麻衣子と圭輔の結婚式の写真の入った封筒と紗凪からの手紙を2人で眺める麻衣子と圭輔のインサート
(終)

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