コラム

メガバンクによる「口座維持手数料」の導入について解説します(前編)

日本の金融リテラシーが低すぎる

当noteでは、2chのレスに逐一ツッコミを入れる形で、現在の日本の金融について軽く解説を行う(便所の落書きにムキになるなよ)。

このnoteの呼び水となったのは以下の2chまとめ。

このまとめで取り上げられた元記事の概要としては、「メガバンクを中心とした銀行が、一般人の銀行口座に対するマイナス金利(口座維持手数料)の適用を検討している」というもの。もし、これが導入された場合、我々一般人でも、銀行にお金を預けているだけでお金が目減りしていくことになる。

便所の落書き(2chの書き込みを揶揄した言葉)とはいえ、あまりに金融リテラシーのないレスが目立つため、啓蒙の意味も込めて、複数のレスを引用する形で現在の金融について軽く解説したい。

1. 「口座維持手数料の導入は銀行の貸し渋りのせい

貸し渋りしすぎたな
もっと日本は流動的だったのに 貸し渋りで停滞して落ちる ツケを預金者が払う?はぁ?

おそらくは、半沢直樹などの銀行業をテーマにした作品が流行り、銀行に対して、「中小事業者をいじめる銀行マン」=「銀行は貸し渋りをする」というイメージが定着したものと思われる。

そもそもの勘違いとして、「貸し渋り」という行為は、我々のような一般の預金者や、銀行株を保有する投資家の保護のために行われるものだ。

不況時、資金繰りに困った企業に対して資金供給を控える行為=「貸し渋り」は、そのような企業が将来的に倒産(デフォルト)に陥る蓋然性が高いため行われる。

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不況時に銀行が「貸し渋り」を行わず、人情に押され求められるがままに資金を提供し続け、そのような企業が倒産に陥って資金が回収できなかった場合、不利益を被るのは、他でもない、銀行に対して資金を提供している我々のような一般の預金者や銀行株を保有する投資家だ。

※リーマンショック以降、国際的に金融規制が強化された現在では一般預金者が不利益を被ることはほぼないと言っても良いが、それはまた別の機会に。

話を分かりやすくすると、飽くまでも銀行は我々の代理として資金を貸し出し、運用しているエージェントに過ぎず、その行為はすべて我々のような一般預金者や投資家のために行われている。預金者が、「貸し渋り」に対して感謝こそすれ、これを憎もうとはあまりにもセンスがない

2. 「銀行の態度が悪いから金を借りる人(企業)がいなくなった

銀行って、自分らの都合が悪くなったら貸し渋りしたり貸し剥がしするもんで、日本の会社は株式発行に拠る直接的な資金調達か 内部留保を溜め込んで大型投資に備えるようになったと思う
バブルとかで金回りが良いときだけお金借りてくれくれって言ってきて 不況突入してお金が足りなくなったらかせないとか 貸した金返せとか、そりゃお客居なくなるよって思った

「銀行=嫌な奴ばかり」というイメージを定着させた半沢直樹の罪は重い(暴論)。

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「貸し渋り」「貸し剥がし」によって資金の借り手がいなくなったとのことだが、これは全くの妄想、嘘、デマだ。

現在でも、企業の資金調達方法のメインストリームは借入金(銀行貸し出し)だ。むしろ、企業による、市場での資金調達が未発達なことが日本の金融の問題点の一つとなっている。

適当に引っ張ってきたレポートだが、これを読むだけでも、銀行貸し出しが企業の資金調達のメインストリームであることが分かるだろう。

3. 「銀行の稼ぐ能力が低い

マイナス金利にしてしまう、銀行側の企業努力が足りないだけでしょ。
利用者には資産運用として個人投資することを薦めておきながら、自分等は預貯金の投資運用もまともにできず、口座維持に手数料までかける始末
これもう銀行いらないよね

これらの批判はある程度的を射ている。というのも、金融庁様の基本スタンスがこれだからだ。

銀行が金利で稼ぐ時代は終わった」「これからは銀行にも"稼ぐ力"が必要」「特に地銀

金融庁によるこんな叱咤激励のなか、金融庁から「地銀の優等生」と誉めそやされていた地銀があった。スルガ銀行だ。

スルガ銀行が後にどうなったかは、「かぼちゃの馬車事件」をご存じの方ならばご案内だろう。

確かに、「銀行に融資能力(適切な貸し出し先を見極め、適切な金利で貸し出し、確実に資金を回収する能力)がない」、「市場部門の運用担当者の資金運用能力が低い」という問題は、日本の銀行に存在する。

しかし、「銀行の本分は長短金利差による利ザヤ確保である」というのが私(筆者)の意見だ。

銀行は、飽くまでも、「市民からお金を預かり、安全な運用によって、利息を預金者に還元する」というのがあるべき姿ではないだろうか。「預金者から低利回りで(短期)資金を調達し、国債や貸し出しといった長期資金で高利回りの利息を受け取る」という、昔ながらのスタイルが、銀行のあるべき姿ではないだろうか。

高い運用利回りが期待できる投資には、必ず相応のリスクが伴う。その投資先の選別に、バンカーやトレーダー(ディーラー)の手腕が試されるわけだが、どうしたって投資に失敗はつきものだ。銀行はそのようなリスクを負わず、手堅い投資によって金融システムを堅固に支えるべき存在ではないだろうか。

現在は、日銀のYCC(イールド・カーブ・コントロール)政策のもと、異常なまでに長短金利差が小さい。このような環境で銀行に自助努力を求めるというのは、いささか酷な話だろう。


以上、前編。長くなってしまったので後半へ続く~

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