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プラセボ探偵 光永理香 14

14  伍億円事件別件逮捕事件(過去編)

 既に研究室のあったビルは解体されていた。
まっさらになった更地を前に私は立ち尽くした。

 自宅の電話で西暦から日付、研究室の番号に掛けたがやはり掛からなかった。

 タイムマシンでは無いが凄い技術だと思った。
声だけでも時空を超えて過去でも未来でも電話で相手と会話が出来る。
こんなものが40年前に開発されているとは驚きだ。
「日本はときどきもの凄い発明する時があるな」

 でも待て待て、なぜ今の現代にこの発明が存在してないんだ。最近スマートフォンとか言うパソコンみたいな携帯電話が現れたぐらいだ。
 父の手帳には今後携帯電話はスマートフォンに取って代わられると書かれていた
 父の残した手帳には日記の様な回想記の箇所もあり何度も読み返すはど興味深い話しだった 私も母も知らない父の過去が書かれていた 関東電力との関係性も
 どうやら現代にも存在するあの巨大企業を揺さぶってみる必要があるなと思い込んだ。


 光永圭一は北海道のM別町という小さな漁港で生まれた。父親は漁師をしながら民宿を営んでいた。実際切り盛りしていたのは圭一の母親キヨだった。忙しい両親は相手してくれないと分かると圭一は小学校高学年から時間があれば勉強ばかりする子供になった。特に物理に興味を示して猛烈に知識を吸収していった。中学校の担任は面談で母親に「圭一くんは都会の高校に行った方が良い」と薦めた。
「漁師に学歴はいらねー」と圭一を漁師の跡継ぎと勝手に決めていた父親は親元を離れることに反対した。それでも物理の実験にのめり込む圭一はとてつも無い事に挑む。なんと高圧の送電線に昇り高圧電流を盗んでやろうとたった一人で送電線の鉄塔によじ登った。一歩間違えると感電する行為だが圭一は見事に送電線に「枝」を張る事に成功した。だが鉄塔を降りることが出来ず翌朝通報され補導される。
 この時圭一の面倒を見てくれた警官が「合田 栄一」と言う警視庁から左遷されていた若い巡査だった。圭一は合田栄一に東京の高校に進学したいが父親に反対されている事を相談していた。何をしたらこんな片田舎に飛ばされるのか知らないが栄一はそこでは真面目に勤務し東京に帰る事が出来る日が来た。そこで改めて圭一を東京に進学させたいと両親を説得した。警視庁の警察官が後見人になってくれるなら大丈夫だと後押ししたのは母親だった。
「圭一はもう居ないものだと思う」と最後まで父親は賛成しなかった。
私立の進学校に入学した圭一は更に勉強に励む。もはや高校生ながら研究者のようだった。
 警視庁に戻った合田栄一は刑事になり忙しいながらも圭一の面倒を良く見た。二人は良く似た兄弟のようで圭一にとっては自分を勘当した実の父親より栄一を育ての親の様に感じていた。
 理系の大学に進んだ圭一は栄一の期待に応えたい一心で研究に没頭した。
 そして圭一は「タキオン粒子」の性質を利用して音声を電線上で光速より速く移動させる理論を発見する。
これを技術的に実現出来れば未来や過去と会話が出来る。それを栄一に話すと「それじゃ未来に起きる大事件を教えて貰えるな」と大笑いして喜んだ。
 ところがある日栄一は張込みしていた容疑者に隠し持っていた拳銃で撃たれてしまう。救急搬送された栄一は駆け付けた圭一に何か伝えようとしたが何も言えず帰らぬ人となってしまう。
 その後、殉職した一介の警察官にしては随分立派な葬儀が行われた。なぜならそれは合田栄一があの巨大企業「関東電力」会長合田 亀太郎の次男だったからだ。北海道M別町に左遷されたのは亀太郎の意向に逆らって警官になった栄一への嫌がらせだった。田舎に飛ばせば嫌になって戻って来るだろうと思っていた亀太郎だったが長男の光一が経営者として成長するにしたがって栄一には自由にさせる様になった。一方、家を飛び出して警官になった栄一だったが一度だけ父親亀太郎に頼み事をした事があった。圭一の学費を援助して欲しいと土下座したと言う。そんな事は知らない圭一だったが益々研究に没頭する。「何としてもこの時空を超えて未来や過去と会話できる電話を完成させて栄一さんに伝えるのだ」「今追っている容疑者は拳銃を持っているぞ」と・・・
 もう一歩で研究の目処が立ちそうなところで研究費が底をついた。大学が金がかかり成果が当てにならない研究にこれ以上予算を掛けたくはないとハッキリ言われた。そこに手を差し伸べたのは「関東電力」だった。研究室も資金も会社が提供する代わりに完成した技術は会社に寄与すると言う条件だった。圭一は二つ返事で了承した。圭一にして見れば目的を達す事が出来れば技術なんて惜しくも無かった。後で思ったのだが大学に手を回し研究を頓挫させたのも、タイミング良く援助したのも、貴重な技術を手に入れようとする合田亀太郎に圭一は弄ばされていたのだと・・・

 そして電話は完成した。

 圭一は一年前の非番に自宅にいるはずの栄一に電話をした。この日は圭一の誕生日だった。
電話に出た栄一の声に涙が出そうになった。
それでも気を取り直し「今日は何年か何月何日か」矢継ぎ早に質問した。栄一は笑いながら何かのクイズにでも答える様に日付を答えてくれた。
圭一は「◯月X日張込み中に拳銃で撃たれる」
「容疑者は拳銃を持っているんだな。わかった」
「教えてくれてありがとう。研究が完成したんだなおめでとう、圭一。俺も嬉しいよ」さすがに電力不足になり会話は途絶えた。でも言いたい事は伝えたこれで栄一さんは死なずに済むと思った。
 だが栄一は帰って来なかった。
会社側の人間に止められても何度も電話した。
その度、栄一は「教えてくれてありがとう」と気をつける事を約束してくれた。でも未来は変わらなかった。圭一は自分の無力さに絶望した。
 研究室も完成した電話も関東電力に渡したが圭一の頭脳の中の設計図は渡さなかった。
会社には不完全な設計図を渡し少しばかりのお金を貰い圭一は姿を消した。

 私が訪れた関東電力は既に代替わりして栄一の兄長男の光一が会長兼社長になっていた。
 亀太郎は別荘で隠居生活をしているらしい。
「光永圭一の死について話したい事がある」と伝えるよう秘書に頼んだ。現れたのは秘書課の課長と名刺を差した出した駒田と言う男だった。

つづく(14/52毎週日曜日20:00更新)

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