惑星ソラリス(ウラジオ日記39)

スプートニクは今ロシアで流行しているブランドで、白地に青い直線が一つというシンプルなデザインが人気を博している。服を裏返すと必ずお店を象徴するマークが大きくプリントされている。白い宇宙帽のフェイス部分が真っ赤に塗られ、それを青い正円で囲んだマークはシンプルながら目を引くデザインでかっこいい。目を引くといっても裏地に描かれているから目には止まらないのだが。

店内には白のジャケット、白のパンツ、白のシャツ、白の靴。白いものばかりだ。どの白にも必ず青い直線が一本引かれている。その細い線が全体を繊細に統制している。そしてよく見るとシャツにもパンツにも靴にもあのマークが裏地に大きくプリントされている。

服はどれも高く、買うのが躊躇われる。レジ横に小さなバッヂが置いてあるのを見つけた。800ルーブルもするが、記念に買った。バッヂもやっぱり表が白く端に小さく青い線。そして裏返すと安全ピンの下に大きくマークがプリントされていた。

外に出るとまだ日は沈んでいない。一度ホステルに帰ろうと、道を歩く。違う方から帰ってみようといつも曲がらない角を曲がる。SOLARISというカフェを見つける。気になって入ってみるとコーヒーを頼む。

運ばれてきた白いカップは飲み干すと底に宇宙帽が丸く描かれている。カップの内側は青く塗られていて、底に沿うように丸い宇宙帽。まさかと思って聞いてみるとスプートニクが経営するカフェだと言う。店内のどこにもあのマークはない。カップの底にだけ。服の裏側やカップの底、目に見えないところにデザインされたマークたち。徹底していてかっこいい。

店を出るとまだ知らない道を歩く。団地を見かけた。団地は横に長く、その幅は平気で1kmは続いているようだ。向こう河岸が見えない。端から端まで見てみたいが、あまりに長いから気が挫かれる。端と端に住んでいる人は出会ったりしないのだろうか。団地の前で遊んでいる子どもがいる。そもそもどっちが正面なのかは知らないけれど。

団地の中に入ってみる。階段を少し上がったところにエレベーターがある。屋上に上がれるのならちょっと言ってみたいとボタンを押してみる。乗ってみるとボタンが並んでいる。一番大きな数字を押して、扉を閉める。「69」

「69?」そんなに高いわけがないと訝ると、エレベーターが動き出す。よろけてしまう。何かが違うのだ。なんだか違和感がある。ゆれ方?違う。横に動いているのだ。横に長い建物のために作られた横へと進むエレベーター。

僕はさっき買ったバッヂを右胸につけた。SFの気分で移動する。

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