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マティス展に行った

末広町のPARK GALLERYで、今日からスタートの『PARCHIVE』という展示に参加させてもらっている。「過去に描いた絵を見直す」というコンセプトのグループ展で、自分は絵を描き始めたばかりの2019年頃の3点を出展した。とてもありがたい話だ。どんどん見つめ直していきたい、自分を。

会期中の土日に在廊する予定で、その時までに新作のZINEを作ろうと絵を描いている。久しぶりのアナログ絵で、スケッチや下描きまではうまくいくのだが、紙にアクリル絵の具で描くやり方が全然わからなくなってしまった。

ピンポン(松本大洋の)のオババが言ってたことを思い出す。細かいところは忘れたけど、練習を1日サボったら取り戻すのに3日かかる的な。いやオババのセリフだったかも怪しいけど、ペコが神社の階段で走り込みしてる場面で誰かが言っていたこの言葉を、まったくその通りですねと絵を描くたびに思う。年々、下手になっているとすら感じる。

昨日の夜も絵がうまくいかず、切り替えて寝ようとするもあまり眠れないまま明け方になってしまった。このまま描き続けてもたぶんダメなので、いったん出かけて牛丼でも食べよ、と顔も洗わず髪も整えず、ほぼパジャマの格好でスマホだけ持って外に出た。

夏が好きだ。長かった花粉症の時期が終わり、一年でも鼻炎が一番軽い季節なのだ。鼻炎がないことの何がいいって、普段は分からない匂いを感じ取れることだ。匂いがすると食べ物が美味しいし、何よりもいろんなことを思い出すのが楽しい。

町や駅で、ふとした瞬間にある匂いがトリガーになって何かを思い出す。プルースト効果というやつですね。読んだことないけどね。思い出されるのは、多くは子ども時代のことである。まだあまり心配ごとがなかった頃の、つまり生活とかお金とか女性のことなどを考えずに済んでいた頃の。記憶と言ったけど、気分や古い感情の欠片と呼ぶ方が近いかもしれない。そうだ、地面の匂いってこんな風で、たしか自分は世界をこんな風に感じていた、みたいなやつ。何か具体的なエピソードを思い出すこともあるが、年をとるにつれてその彩度は下がっていく。思い出はモノクローム、失われたなんちゃらを求めて。

今朝も、夜に降った雨で湿った道路が少しずつ乾いていく匂いに刺激されて、このままちょっと歩いてみようかという気になった。歩きながら絵のことを考える。なんでもいい、何かヒントがほしい。ほしいのだが〜。うーん、誰かの描いたかっこいい絵が見たい。でもこんな早くからギャラリーやってないしな。とそこで、東京都美術館のマティス展のことを思い出した。駅のすぐそばまで来ていたので、そのまま電車に乗ってしまう。たしか日時予約制だったけど、スマホを見ると今日の朝イチのチケットが取れたので上野に向かった。

今日も前置きが長くなってしまった。ここからが本題です。全然関係ないけどパソコン音楽クラブの新曲(PV)かっこいいね。いま聴いていたので。

上野、東京都美術館に着くとすでにオープン待ちの行列が出来ていた。マティスの絵って教科書に載ってるような有名なやつ以外は全然見たことなくて、なんか感覚的な、のびのびとした描線の〜、くらいに思っていたのだが、本当にすごかったです。

マティス、近〜現代の絵の「全部」を一人でやってる人だった。絵画の歴史に基づいて、様々な実験や試行錯誤の果てにものすごい域に達した人。古典からセザンヌ、ホックニーまでを一人で繋げているというか、いや一人でということはなくて同時代の作家とのあれこれが確実にあるとは思うけど、美術への貢献度でいったらピカソよりも影響大きいのではないかと思った。それくらい、現代美術のあちこちに、マティスはいまだに「いる」のだ。

マティスはガチの巨匠、常識なんだなということがありありと伝わる展示で、無知な自分は、今日それを知ることができて本当にうれしかった。楽しかったし、ありがたかった。とりあえず仕事量が半端ない。絵への情熱が計り知れない。『背中』という巨大なレリーフ(彫刻)作品があって、マティスの特徴のひとつでもあるフォルムの単純化を人物の背中で段階的に表現した連作なのだけど、ここまでやるかと鳥肌が立った。たぶん見たら意味がわかると思う。あとマティスはわりと長生きだった(84歳まで生きた)んだけど、作家にとって健康寿命の長さも重要な要素だよなと思った。全員、道半ばで死ぬわけなので。

いい作品がたくさんあったし、晩年に立てた礼拝堂のコーナーもとても素晴らしかった。美術に興味を持つ全ての人におすすめです。あの人も絶対行くだろうな(もしくはもう行ったかな)と何人かの顔が浮かんだ。るんるんで美術館を出た。

それで、自分の絵なんだけど、いやもう素晴らしい刺激をいただけたしおかげさまで気分も上々なんすけど、すごすぎてまったく参考にならなかった。あと、都美術館の別のスペースで日本画院展をやっていたので一通り見てきたのだが、逆に絵を描く意味ってなんなんだろう、と一瞬考えてしまった。才能があって、それを磨き続ける努力を惜しまず、長い人生の時間で紆余曲折……いや、やめておこう。マティス、マジマエストロ(M M M)、それしか言うことはない。

画像は、日本画院の展示で一番マティスぽかった絵。かなり好き。

『運慶、喜怒哀楽彫る』

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