PAVEMENTのライブに行った話
PAVEMENTはめちゃめちゃ好きなバンドなんだけど、ライブに行くのは久しぶりだった。
福岡のスカラエスパシオというライブハウスで見たのが最後で、たぶん『Wowee Zowee』(1995年)というアルバムがリリースされた時のツアーだから……えっ……28年ぶり……?
だいたいたぶん20年くらいぶりかな〜と思っていたので、ちょっと引いてしまった。28年て。その時生まれた人、いま28歳か。なんてことだ……本当に長生きしすぎてしまったと感じる。
大きくなったね〜〜〜!28歳の人!
というか、コンサートに行くの自体がどのくらいぶりなのかがよく分からない。3年くらい前に日比谷野音の外でナンバーガール聴いてめちゃくちゃ踊った日があったけど、あれはお金払ってないしなあ。みたいなことを考えながらTOKYO DOME CITY HALLに向かう。風が強くて刺すような寒さだった。
ホールに着いて、物販に並んで、スウェットとTシャツを買った。バンドメンバーはちょうど俺の10歳くらい上のはずで、そんなおじいちゃんたちがせっかく来日してくれたので、ちょっとでもお金を払いたかった。お客さんはけっこうな入りで、やっぱそれなりに人気あるんだなと思うと嬉しかった。並んでビールを買う。並んで喫煙所へ。オープニングアクトのDYGL(デイグロー)というバンドが始まる頃に席に着いた。
SS席が売り切れていたので、3階のもう壁際ぎりぎりの後ろの席だ。でも全然いい。
DYGLはかなりいいバンドだった。全曲英語歌詞で、曲もかっこいいので好きになった。応援したい。立ち上がって踊りたいけど、3階席で踊ってるやつ一人もいない。残念だったけど椅子でノリノリに身体を揺らした。拍手もなるべくでかい音が鳴るようにした。
DYGLの演奏が終わって、ステージのセッティングが始まった。さっきのビールが効いてきてめちゃくちゃおしっこしたい。まだ来るなよ、来るなよと思いながらトイレへ。おじさん二人が用を足している間に入って、トリオでおしっこを済ませた。席に戻ってしばらくしたら、メンバーが出てきて演奏が始まった。
開演しても、正直自分がどういうテンションで来ているのか、まだよく分からなかった。曲も聴きすぎてかなり飽きているので、最近は全然聴いていない。嬉しいのは嬉しいんだけど。いやでも嬉しいな、かなりうれしいかも!って感じで上がってきて、3曲めの“Gold Sounds”という曲で自分でもびっくりすることが起きた。泣いちゃったのだ。
生の音楽を聴いて涙が流れたのは、生まれて初めてだった。うそでしょ?と思って笑った。
つーかそういうバンドじゃないしね。でもだめだった。涙の理由はよく分からない。PAVEMENTは大好きだけど、とくに甘酸っぱい思い出なんかと結びついた何かがあるわけでもない。
ただ本当に、たくさん聴いたなあとは思う。渋谷のタワレコで『Crooked Rain』1曲目の“Silence Kit”を試聴した瞬間に好きになってから、30年くらいで一番長い時間聴いてきたのはたぶんPAVEMENTだ。CDで、カセットテープで、iTunesで、飽きるほど聴いてきた楽曲が、いま目の前で鳴らされているという感動……?
えっと、おい、そういうことで泣いていいのか?と疑問にも思うし、自分にも人間の心があったのか〜という感慨もある。コンサートは進む。一度泣いたら、後はわりとだめで、結局5回泣いてしまった。
でも単純にセンチメンタルな涙というわけでもなくて、途中であ、ちゃんとアートとしての楽曲と演奏に感動できている、それもあって、泣いてるのである……という言い訳が立つ瞬間もあった。自分でもクソめんどくさい。でもそういうことが必要だった。俺にとってPAVEMENTは、そういうバンドだったから。
ふと後ろを振り返ると、一番後ろの壁際で踊ってるおじさんを発見。なるほどその手があったのねと席を立って、おじさんの横に移動した。好きなバンドのさあ!ライブでさあ!バンドと一緒に歌いながら踊れるってさあ!!最高だよね。
アンコールで、一番好きな“Major Leagues”という曲を演奏してくれて嬉しかった。
サビの歌詞は下の通りです。
いつか彼らは君を疲れさせる
ワインに口づけを
マジック・クリスチャンが皮を噛む
悪い女の子はずっと悪い子のままだから
さあ入って
(和訳:俺)
これを歌いながら号泣です。
二番目に好きな“Carrot Rope”と三番目に好きな“Give It A Day”はやってくれなかった(二日目もやらなかった模様)けど、ありがとう、PAVEMENT。ありがPAVEMENT。
人生のボーナスみたいなプレゼントだった。
・・・・・・・・・・・
ライブが始まってしばらくして、今日の曲順を覚えておきたいな、でも絶対に覚えられないよなということがすごく悲しかった。でも終わった後、セットリストをゲットした外国人女性が写真に撮らせてくれて、その画像を見ながら、PAVEMENTを流しながら、これを書いている。
というか現代にはインターネットがあるので、ツイッターで「PAVEMENT セトリ」と検索したら画像もテキストも誰かが上げてくれているんだねということが分かった。
それはとてもありがたいことだけど、今日のこの曲順を覚えておきたいな、でも無理だよな、と思った自分の悲しみを大事にしたいと思う。まだ温もりを持ってこの胸、この手の中にあるこの感情を。
でもこの気持も、きっとすぐに忘れてしまう。きっとというか確実に。何日か経てば、手ざわりを失くし、輪郭があやふやになり、暮らしの時間の中に溶けて流れて消える。
だからせめて、そういう気持ちでいた日があったことは覚えていたいと思う。
ただ、その時の感情そのままを思い出せるわけではない。
それは俺が歳をとりすぎたからでも、もともと頭が悪いからでもない。
単純に、そういうことなのだ。
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