見出し画像

4月29日の日記

4月が終わってしまう!と特に明確な理由もなく気持ちが焦りだしたので、同級生のLINEグループに「なんかバイトくれ」と助けを求めた。

そのうちの一人が、自分の店で一日働いてみる?と言ってくれたので、29日の午前中から販売アシスタントのアルバイトをさせてもらった。詳細は省くけど、お店を訪れたお客さんにものを売る仕事です。

いらっしゃいませ、ありがとうございました。品出し、レジ打ち、接客と久しぶりに声を出して体を動かして働くのが楽しかった。忙しかったけど、とくに難しいこともなく、ハキハキと働いていれば時間が過ぎてくれる。筋トレみたいでちょっと楽しい。

お客さんの中で一組、印象的なご夫婦がいた。
奥さんのほうが俺を見るなり、あら、こちら新人さ〜ん?と元気いっぱいにオーナー(同級生)に話しかけていたので、常連なのだということがわかった。はい、友人が最近体がなまっているというので、一日アルバイトでもやってみないか?と誘って来てもらったんです、と紹介してくれた。「無職なのよこの人」とは言わないところが優しい。そうなんです、不慣れですが、どうぞよろしくお願いします、と挨拶したところから話が始まった。

そうなんだ〜よろしくね、私は◯◯◯◯(有名な企業に勤めているということ)で旦那は◯◯◯◯(別の有名企業)なの、海外旅行が趣味でね、実は明日からタイに行くの、私は英語できるから自分で航空券も宿も手配しちゃうし、スペイン語も話せるからまあ世界中どこでも困んないわよね、旦那は◯◯◯◯(すごくお金がかかるアクティビティ)が趣味で、世界中にその趣味友がいて……みたいな感じで、短時間でとにかく大量の(高級そうな)情報の雨が降ってくる。

最初はレーダーのように情報を照射してその反応を見て人となりを判断するタイプの人なのかなと思って、ニュートラルな笑顔ではいはいと話を聞いていたんだけど、どうも「そうじゃねんだよな」みたいな顔をされる。海外旅行が趣味でね、の流れで好きな国とかある?と聞かれたので、あー、ニューヨークとか住んでみたいですね、行ったことないですけど、と答えたら、突然、英語(!)で旦那さんの方を向いて「ニューヨークですって!街は汚いし冬は寒いし、まあそれは人の好きずきよね、でもあなた覚えてる?あのブロンクスのサンドイッチ屋さん!あそこだけは私、本当にお気に入りよ」みたいな内容(日本人発音の英語なのでめちゃくちゃ聞き取りやすかった)のことをかなりの声量でぺらぺらと話しだして、ミュージカルが始まったのかと思った。

なるほど。この人はとにかく「すごい」って言って欲しい人なのかも、と思ったので、そこからはへえー!とすごい!を連発して話を聞いていたのだが、英語もスペイン語もいけるのよの流れでつい「すごい、じゃあもうロシアのど田舎にでも行かない限り困ることはないですね」とコメントしたらもう、よくぞ言ってくれました……!という顔になってそうでしょ、だから今ねロシア語も勉強してるの!かなり話せるのよ!と言ってロシア語でさっきのような演説を始めて、本当にすごかった。ロシア語なのでさすがに内容はわからなかった。

彼女のパワフルなトークを聞きながら、世の中本当に色んな人がいるな……と思った。学歴・年収マウントをせずにいられない人はわりといる印象だけど、語学マウントはけっこう新鮮だった。

学歴・年収に関していえば自分はかなり底辺の人間だけど、それで怯んだり気後れしたりすることがあまりない。理由としては、美的なセンスの有無(ものを見る目があるかどうかみたいなこと)、あと絵が上手いことが自分の中での人物の価値基準になっていて、そして自分より美的なセンスがある人はあまりいないと思っているので(絶対に間違っているし、これは自分の病的な部分だという認識もある)(あと絵は下手だ)、学歴や収入などはあくまでも二次的、三次的な要素としか感じられないのだ。だからそれでマウントをとってくる人に対しては逆に、かわいそうに、そういうことでしか自分を誇れないのだな……と思うことが多い。

語学の奥さんに対しても、話が長かったので少し飽きてきて気が緩んでしまい、頭が良くてお金も持ってるのにダサい靴履いててかわいそ……と一瞬思ってしまって多分それがバレた。頭がいいので、人の視線の動きとか瞬間の表情から色んな情報を読み取るのが上手いのだ。靴がどうとかはわからないけど、何かを哀れまれてるということを感づかれてしまった。おそらく、常に自分の自慢話を相手がどう思っているのかを判断しながら、その反応を味わっているんだと思う。でもそういうのって、下品だなあ……とも瞬間的に思ってしまい、多分それも伝わった。ミスだ。その日は立ち仕事で疲れていたのもあるけど、最近、ネガティブな感情が隠せずに普通に表情に出てしまう。老化が進んでるなと感じる。

その直後、奥さんのシャッターがガシャーンと下りた感じで、俺の顔を一切見なくなり話しかけなくなったので、すごい、あなたの判断は的確ですと思った。会話が始まってから3〜4分くらい経ってのことだった。

それまでの間、旦那さんはずっと奥さんに合いの手を入れていた。すごく人の良さそうな、柔和な目つきと優しい話し方。突飛なことを言い出す妻の通訳です、という振る舞いが彼の役目らしく、奥さんのチャンネルが落ちると同時に彼も「スッ」と演じることをやめたのが鮮やかだった。奥さんは広瀬香美、旦那さんは阿藤快にそれぞれ少し似ていた。

オーナー(同級生)に「ごめん、何かやってしまったかも」という視線を送ると「全然大丈夫だよ」みたいな顔をしてくれた。

アルバイトが終わって、喫茶店で本を読みながら同級生を待った。合流してご飯を食べに行った。あの夫婦の話になって、「面白い人たちだったね」と言うと、「女神と神官みたいだよね」と言っていてなるほどと思った。

すごくいい常連さんらしいので、俺がバイト続けたら来なくなっちゃうかもねという話になり、そりゃ困るねということになり、販売のアルバイトは一日で終了になりました。これ読むかどうかわからないけど、世話になったありがとね。常連さんへの失礼、ごめんなさい。

あとは朝、ツイッターでタバコの話題を見かけてちょうどその日の夜に一箱を吸い終わりそうだったので、いい機会かなと思って禁煙を始めました。続くといいな。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?