2018/02/13 01:16 (19)

甘い匂いがする。動物的でどうしようもない、殺されかけた春の匂いだ。ひりついた私の肌に、確かにそれは染み込んでいく。目を覚ます。目蓋に微かな違和感を覚え、そっと小指で愛撫してみせた。うっすらと重なり合った眠気が、指の腹に熱を伝える。私の身体は、今日もおかしくなっていた。まだ夢を見ていたくて、柔らかなシーツに唇を寄せた。

「あら、目が覚めたの?」                      母が枕元で囁く。                          「貴女が眠っている時ね、とても綺麗だったの。肌が真っ白で、静かに微笑んでいたの。」彼女は嬉しそうに続ける。                       
「顔が変わったわ。女の人になるのね」

私は最近、自分が馬鹿になった気がする。皮膚感覚も鈍った気がする。私はただ「そこにある」現象だけを無意識下で選択し、シナプスへ注ぎ込んでいるようだ。あんなに愛し合った君は、そんな私に愛想が尽きたらしい。
怖いのだ。かつてのように鋭すぎる感受性で自らを射抜いたら、なんだか真っ先に私自身が壊れてしまいそうだった。こんなはずではなかった。私はもう少し醜くなる予定だった。女に近付いて、人間になって、普通の人と普通の恋をして、笑いながら汚れて、潔く今までの私を忘れていくはずだった。
でも違った。私はこんなに何者にもなれず、何も欲せず、ただひたすら朝に目覚めるだけだ。私は私の春を少しづつ忘れていく。泣きそうな顔で何かに飽きていく。私たち二人を繋ぐ言葉さえ目の前で佇んでいてくれれば、それだけでいいのに。本当に欲しいものはいつも手に入らない。私は言葉だけを愛していたのか。言葉だけ、何も映し出さない純粋な言葉だけに君を見ていたかった。君の指先はそれを許した。それなのにどうして、眼差しさえもはや重なり合わないのだろう?
私が女になった頃、新しい言葉は私の唇を濡らす。そして頬を流れ、指に絡みつく。胸を伝えば子宮に眠って、そうして暗く澱んでいく。

気怠く震える枕元のスマートフォン。
あたしの心も震えてしょうがなかった。
今日は君に会えそうもない。
今日だけは会いたくない。
君は一体、何になれたの?
私は今日で、はたちになるの。

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