『くちびる』2017/11/19 15:47 (age 19)

クリニーク クラリファイングローション02で湿らせたコットンを、火照った頬へ滑らす。瞬間、アルコールな冷気が粘膜を刺激した。眼球の微かな痛み。もう慣れたから、そのまま緩慢な動作を続ける。コットンから溢れた化粧水の一滴が、ふいに首筋を伝う、胸を伝う。みぞおちで、散る。痛みに呻く。傷なんてあったかな?あった。さっき君がつけたんだ。気付かなかった。ところで、君って誰だっけ。そんな深夜2時ばかり繰り返す。
「麻布十番のピザ屋でマシュマロ味のアイスがあるよ。その後、バーで踊りませんか。それで酔って嫌なこと、そうだね僕達のことさえ忘れようよ」
退廃と退屈と焦燥。コピーを繰り返して褪せたインク。
「ごめん、無理。わたし、家で毎晩映画観てるの。眠くなってね、Twitterとかに秘密をツイートしちゃうの。たとえばあの人になりたいとか」
ポータブルプレイヤーから流れるエリック・サティ、鬼ごっこ。小3の夏休み、漢字ドリルを解きながら聴いていたあの曲。
小説っておばけみたいで怖い。とても恐ろしいね。急に書けなくなる。悲しいね、どうにも紛らわしたい。ペンを持つ手が震え出す。
私は幽霊みたいに指先を冷たくして、アイスクリームを食べた。ミルクレア チョコレート。その次にハーゲンダッツ パンプキン。もっと単純な言葉を持ちたかった。本なんて読まなければ良かった。
私はずっと夢を見ている。きっと永遠に醒めないだろう。それでも、明日には叶うでしょう、と十字を切って服を着る。iPhone7を充電する。原稿用紙を買う。書けなかった手紙を捨てる。
全部変わってしまったのに、インクだけが揺れ続けている。
私は何にもなれなかった。私がソ連に修正されてこの世から消えちゃっても、みんな生きていける。優しい世界だ。

もう一度服を脱いで、裸になって、瞼を閉じる。私は動物になりたい。或いは花になりたかった。2回くしゃみする。涙は熱い。サガンにだけはなりたくない。アラーキーは鬼みたいで好き。唇を噛む。私は、何か創ることに対して冷酷な人を好きになる。
その眼差しに殺されたいんでしょ。

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