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第008話 史上最大の特大広告イベント!

 『渋谷周辺の大型ビジョンで一週間放映! SHOWLIVEのCMに出演!』というイベントは、二位までが権利を得ることが出来る。
 イベントの期間は、2019/04/26(金) 18:00 〜 05/06(月) 19:59まで。

 後ろ向きだった八広を参加させたのはいいけど、正直僕の心の中は不安でいっぱいだった。

 前回のアバターイベントで八広が悔しい思いをした。それをリスナーの皆は知っている。だから二人で同じイベントに出れば、皆は絶対八広を応援するだろう。きっと凄い差が出てしまう。

 もしも、僕だけ二位にもなれなかったら……。

 そんな不安が大きかった。
 だけど僕は強くなりたい。
 ずっと逃げ腰だった自分を変えたい。

 弱い自分に負けないように、気持ちを奮い立たせる言葉を使っていこう。
 それに、弱気でいる八広の闘争心を煽って、二人で進めると思うから。

「絶対に一位が良い!」

 この言葉は僕の指針だ。



 ◇

 イベントの順位の決め方は簡単。
 リスナーさんからもらうポイント数で決まる。

 僕達は一日一回だった配信をイベントのルールである一日三時間という制限の中で配信を行うことにした。一日三回。それは八広も同じ。

 07:00 エピト
 10:00 ハチピ
 13:00 エピト
 16:00 ハチピ
 19:00 ハチピ
 22:00 エピト

 このタイムスケジュールはリスナーさん達にとってハードなものだと思う。
 リスナーさんが投げる無料ギフトは、一回の配信で一人最大1810ポイント。何人もの人がこの無料ギフトを送ってくれたら、かなりのポイント数をもらえることになる。
 だけどこの無料ギフトを手に入れるのはリスナーさん達にとって手間と労力がかかる。

 それでもお願いするしかない。
 本気で勝ちに行くイベント。

 それが『ガチイベ』だ。

 無料ギフトの貰い方は少し複雑で難しい。そんな中、リスナーさん達がどの時間に集めに行くと良いのかをSNS上で何度も呟いてくれた。
 その気持ちが本当に嬉しかった。

「絶対一位になりたい!! ハチピには負けたくない!!」

 八広との順位が配信の度に入れ替わり、僕は何度もこの言葉を使う。
 だけどこの言葉は八広を傷つけていた。

【ハチピに負けたくないと言わないで欲しい】

 イベント二日目に八広からLINEが来た。
 
【オレは敵じゃない】
【ポイントポイントと言う先輩が怖い】

 そんなメッセージが来て、僕は何が正解か分からなくなった。
 敵対しているつもりはないけど、勝ちたい気持ちはあるから……。

 僕は僕が強くなるためにこの言葉を使いたい。
 それに八広にも一位を目指して欲しい。

 だって、二人で一位二位を取らなければならないから。

 僕は自信をつけるために。
 八広はやる気を出すために。

 僕達の夢の為に僕が悪者になっても構わない。

【ごめん。敵対しているつもりはないよ。だけど、僕は「絶対一位」という言葉だけは止めない】

 八広にそう伝えた。



 ◇

 イベント六日目。
 僕は二位。一位の八広との差が7万ポイントくらい開いてしまった。

 どうしよう、このままどんどん離されてしまうかもしれない。
 どうしたらもっとポイントを貰えるんだろう。
 どうしたら……。

 僕はポイントのことばかり考えていた。

『捨て星忘れた、ごめんね』
『今日は3周できなかった~』

 3周とは無料ギフトを最大限に取得して贈ること。そして捨て星というものをしないと3周出来ないのだ。

「皆どうしたの? 僕は一位なりたいんだよ? もっと頑張って」

 そんなリスナーさんからの発言に僕は最低な言葉を投げてしまった。
 皆精一杯協力してくれているのに。

 悪者になってもいいとは言ったけど、こういうことじゃない。
 僕は焦りで周りが見えなくなっていた。
 それはリスナーさん達にも伝わっていて、何人かから指摘も届いた。

 ポイントが伸びなくなったのはこういうことなのかも。
 僕は立ち止まり振り返った。

 僕はこの数日、観にきてくれる人を楽しませた?
 心から感謝していた?

 ううん。
 僕はただポイントを取ることだけを考えて、皆に甘えていただけだった。
 ファンを傷つけたり悲しませたりしている奴が一位になれるわけがない。

 残りわずか二日というところで、やっと気が付いた。
 リスナーさんを全力で楽しませる配信をしよう。

 僕は3周してくれたら希望者には『投げちゅー』をするというのをやってみた。男性リスナーさんからもリクエストをもらったりと意外と盛り上がってくれた。
 あとはコメントをテンポ良く読んで、コメント欄が盛り上がるように返答する。

 そして今まで以上に感謝の気持ちを伝えた。

 コメント欄が盛り上がる。
 自然とポイントも増える。

 やっぱり僕に足りなかったのは「楽しんでもらいたいという気持ち」と「感謝する気持ち」だったんだ。

「みんなありがとう」

 僕は心から感謝の気持ちを伝えた。

『毎日幸せもらってるからこっちがありがとうだよ』

 リスナーさんからの言葉にぐっと胸が詰まる。
 ありがとうがありがとうで返ってくる。
 それが本当に嬉しかった。



 ◇

 イベント最終日、最終枠。19時から八広と同時配信だ。
 ポイントは僅差。抜いたり抜かれたりを繰り返している。どっちが一位になってもおかしくない状況だった。それにもしかしたら三位のファンの人が大量にギフトを贈り、順位がガラリと変わるかもしれない。そんな不安も拭い切れなかった。
 僕は怖くて何度も「一位になりたい」と呪文のように唱える。
 そんな臆病な僕を支えてくれるかのように、皆が何度もギフトを贈ってくれた。

 皆の気持ちが嬉しくて、気を抜いてしまったら今にも泣いてしまいそうだった。
 笑っていたい。
 楽しませたい。

 皆の想いが伝わってくるからこそ、そう思った。
 だから笑いながら楽しくなるような話をする。
 そして、ギフトが投げられるたびに何度もお礼を言った。

 ありがとう。
 ありがとう。

 色んなルームから応援に来てくれたり、皆の優しさに触れると胸が熱くなる。

「皆が凄いんだよ。本当、十日間頑張ってくれたもん……。いや~……泣くのは終わってからにしよう。今は笑っていたい。もっとふざけた事言っていよう」

 少しでも気を抜くと涙腺が緩んでしまう。
 泣いちゃダメだ。
 まだダメ。

「僕が泣いたら意味がないだよな……。うん、頑張る。絶対一位になって終わろうね。そのために僕は一位になりたいって言い続けたから。笑おう。ありがとう」

 何度か泣いてしまったけど、僕はなんとか笑いながら配信できたと思う。

 イベントが終わる五分前。
 どんどん有料ギフトも投げられる。今まで貰ったことのない高級ギフトまで飛んできた。

「ああああああ!! ありがとう!! 本当に……ありがとう!! 皆~~~~、本当にありがとう!!」

 20時。
 僕は暫定一位で終了した。
 八広は二位。

 一位になれたことも嬉しかったけど、八広が二位で終われたことに安心して涙が出た。

「ちゃんとワンツー出来た……。本当によかった……。本当にありがとう……ありがとう。皆がいなかったらこの結果は出なかったから……。この十日間、皆には時間も体力も精神的にも無理をさせてしまっていたと思うから、本当にありがとうしかなくて……」

 八広を傷つけたことやファンになってくれた子達に辛い思いをさせてしまったこともあったけど、その分絆が深まったような気がした。
 支えてくれる人がいるから僕は今、ここに立てている。
 それがとてもよくわかった十日間だった。

 自信のなかった僕に「自信」と「信頼」を形あるものとして皆が見せてくれた。

 皆と夢を叶えていきたい。
 皆となら叶えられる。

 ありがとう。
 僕はもっと強くなる。



サウンドノベル sound novel

後日追加予定!


※実際の配信はSHOWROOMでご覧いただけます。よかったらフォローお願いします!!
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