見出し画像

第007話 感謝祭ゲスト出演

 G社の発表の翌日には、メガネ型のウェアラブルデバイス『ダーウィン』が爆発的に売れた。数日経った今は、どこも品切れで海外から直接買う人もいる位だ。
 通学中や大学にもチラホラとこのダーウィンを使っている人を見かける。そして、今までVRに興味のなかった女子高生ですら、『スマホなんてダサい』と自慢げにダーウィンをつけ始めたのには驚いた。

 やっぱりG社の影響力ってすげー。
 ってか、オレも欲しいー!!

 ネオガイアのユーザーもかなり増えた。新しいワールドが次から次へと作られていて、盛り上がってる感じが伝わる。

 だけどオレ達は相変わらず、毎晩ネオガイアから配信しているだけで、何も変わらなかった。

 野望を阻止することについては、何もしてないわけじゃなくて、何も出来ないというか、何をしていいか全く分からなかった。
 もちろんS.S.さんにコンタクトを試みたけど、二度送られてきたメールアドレスはどちらもダミーらしく、宛先不明で戻ってきてしまった。S.S.さんから連絡がない限り、オレ達は最初の指示であるVtuberとして動くしかないみたい。

 ってことで、4月9日もいつものように配信をしていた。

「ヘイオマチ! ヘイハマチ! オレハチピ! だったっけ?」
「いや、僕、昨日の配信見てないから知らないけど」

 オレの一発ギャグを瑛斗先輩に見せようと思っていたんだけど、忘れちゃった。

「もういいや。やめよう~。ほら、イラストの紹介とかしないとだしさ」
「もっかいだけ! もっかいだけ! お願いお願い!」

 うおおお~~~んんん。(泣き声)
 瑛斗先輩に言われたらやるしかないでしょ~~~。

「ヘイオマチ! ヘイハマチ! オレハチピィ!!」

 ちゃんと振り付けをしてオレはやりきった!
 やりきったよ、瑛斗先輩!!
 オレは瑛斗先輩の反応を確認するために振り返る――。

「ってぅおおおおおい!! 見てねえええええ!! 見てないよっ!!」

 瑛斗先輩は明後日の方向を向いていた! 嘘でしょ!?

「あっははははは! じゃ、絵、紹介しましょう。ありがとうございました~」

 しかも緩い感じで流す! そうだよ、瑛斗先輩はいつもそう!!

「オレ、今日のこと一生忘れない! 日記に書くからっ!! 小説に書いてもらうからっ!!」
「あはははは。なんでだよ。こんなん書いても何も感動しないから」

 ふーんだ。書いてもらうもんね。公言取ったし!

 ……っとまぁ、こんな感じでオレ達は毎日配信をしていた。
 配信と言えば、オレ達が配信しているSHOWLIVEでは、常にいろんなイベントが開催されている。そして多くの配信者がそのイベントに参加していた。

 そのイベントの一つに料理店のイメージガールを選ぶというものがある。イメージガールに選ばれる条件は、ランキング1位になること。

 オレ達はもちろん参加しないんだけど、イベントの参加者の中にピンクの髪がとっても似合うバーチャル配信者さんがいた。リアルな女の子が沢山いる中での参加だ。
 もともと、とても人気のある配信者さんなんだけど、それでも本気で1位を取りに行かなければ取れない難しいイベントだった。

 オレも瑛斗先輩も配信を始める前から知っている人だったし、軽い感じで配信ルームを見に行ってみたんだけど、配信者さんのイベントにかける熱量とそれを応援するリスナーさんたちの熱量がハンパない!!

 これが上位のバーチャル配信者さんなんだ……。

 同じバーチャル配信者ということもあって勉強にもなるし、何より配信者さんの魅力に引き寄せられた。瑛斗先輩が「僕もいつかこんな風に人を魅了できる人になりたい」って言ってたけど、本当にそう思う。

 オレと瑛斗先輩は朝や夜など、何度も何度も応援のために足を運んだ。そしていつの間にか「バーチャル負けるな! バーチャル負けるな!」という勝手にバーチャル代表みたいな感じで応援していた……のはここだけの話だ。

 そして間もなくイベントが終わりを迎えようとした頃……。

【八広!! どうしよう!!】

 なんか瑛斗先輩が電話の向こうで慌ててる。何かと聞いてみれば、配信者さんから『イベント企画応援感謝祭』にゲスト出演して欲しいとのお誘いが来たとのことだった。

「えっ!? あのルームに!? オレ達行ってもいいんですか?」
【そうなんだよ、僕たちなんかが行っても大丈夫なのかなって思ったけどさ、めちゃくちゃ嬉しくない!? お受けしちゃうよ?】

 勿論、拒否するわけがない!
 オレは快諾した。

 配信当日。
 とにかく喜びと不安と緊張でいっぱいだった。
 この日は大学のミーティングがあってリハーサルが始まるギリギリの時間に家に着いた。

「間に合ったぁぁぁぁぁ!!」

 息も整える間もなくリハーサルに参加する。
 リハーサルに入ってみたものの、めちゃくちゃ多くの配信者さん達が呼ばれていて、オレは萎縮してしまった。

 とにかく無言。何も言えない。
 オレは大人しくみんなの会話を聞くのに徹底していた。

 そんなワタワタした(主にオレの心が)リハーサルが終わり、音声を切らなければいけないのに、ソフトの使い方が分からず右往左往。

「え? どうやってこれ落ちたらいいんですか?」
「あれ? あれ? ヤバイヤバイ!」

 瑛斗先輩と共に音声チャンネルに取り残されるという失態!!
 笑われてるよっ!! いや~もう恥ずかしい!!
 本番が不安でしょうがない。

 なんとかリハーサルを終えると瑛斗先輩から電話がきた。

【八広~! どうしようどうしよう!】

 大丈夫ですよって言いたいけど無理!
 とりあえず何を話すのかを決めて、練習もして本番まで待機した。

 いざ本番を迎えると、練習しすぎたせいか、時間が大幅に余るという事態! だけど配信者さんを挟んでのトークが楽しくて仕方がなかった。楽し過ぎて配信者さんのトークに被せてしまったのはご愛嬌……だと思う。多分。反省は……してる。

 もう何をしゃべったのか覚えていないけど、みんなに笑ってもらえたのが本当に嬉しかった。配信者さんもすっごく優しかったし!!

 あっという間に本番が終了し、瑛斗先輩と反省会。

「楽しかった~! オレ達のルームのリスナーさんも沢山見に来てくれて、安心感と嬉しさでテンション上がっちゃいましたよ!」
【八広、リハのとき全然しゃべっていなかったのに、しゃべっていたテイになっててうけた】
「あれ、そうでしたっけ。もう被ってて全然聞けてなかった」
【言ってた。他の配信者さんからはハチピくん緊張してほぼ無言だったよねって言われてたし】

 そう言いながら瑛斗先輩が笑う。

「いや、もう全然覚えてません。でもリスナーさん達がたくさんタコ投げてくれたのは分かりましたよ!」
【そうそう! 流石に歌えなかったけど。でもさ、こんな風に呼ばれたのはリスナーさん達のおかげだよね。いつか僕も目標を達成する事でリスナーの皆に恩返しをしたり、喜んで欲しいな】

 瑛斗先輩が言うように、オレ達はちゃんとリスナーさんに恩返しできるような配信者になりたい!!

 そう思っていた矢先だった。
 オレ達のところに、とあるイベントの情報が舞い込んできたのだ。

『渋谷周辺の大型ビジョンで一週間放映されるSHOWLIVEのCMに出演できる権』

「どうします? オレ達しばらくイベント参加しないって決めてましたが……」

 ハピバ島で瑛斗先輩といつものように今後について話し合う。
 正直アバターイベントを達成する事が出来なかったオレは、暫くは何もイベントには出たくなかった。

「八広、僕ね、この前の配信者さんが『イベントを通して強くなりたいと思ってた』って言ってて、それは『気持ちを強く持つ』っていう意味で強くなりたいと思ってたのかなって解釈したんだよ。僕もそう考えている。強くなりたいって。だから挑戦しよう!!」
「でも瑛斗先輩……オレ、暫くは他のことで頑張ったらいいかなって……」

 瑛斗先輩は、オレが後ろ向きになっているのを感じたのかもしれない。急に立ち上がって、オレの前に立った。

「そんなうじうじしてる八広なんて皆は見たくない! オレたちはもっと先に行くんでしょ!?」
「皆は見たくない……」

 前に配信で不安を洩らしてしまった時、リスナーの皆が『大丈夫!私たちがついてるよ』って言ってくれたことを思い出した。

 見てくれる皆の心を元気にしたい!
 そう思ってやってきたのに、オレの方が元気を貰ってしまっているんだよな……。

 あぁこんなんじゃだめだ……。
 配信者本人が不安を抱えてたり、どうしようって迷って元気がないなんて問題外だと思う。

「分かりました! オレ、やります! 絶対に一位二位を二人で取って渋谷の大型ビジョンでハピバトを宣伝しましょう!!」
「うん! 頑張ろう!!」

 こうしてオレ達はイベントに挑戦することを決めた!!



サウンドノベル sound novel

後日追加予定!

※実際の配信はSHOWROOMでご覧いただけます。よかったらフォローお願いします!!
エピトROOM:https://www.showroom-live.com/ept_80
ハチピROOM:https://www.showroom-live.com/hachipi_HB

エピトとハチピをサポートしませんか?