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ハピバト!第006話 理想郷

 今日はバーチャルワールド『ネオガイア』内にあるハピバ島で、八広と配信内容について確認し合っていた。

「ハチピルームを今後、こんな風に作っていくのはどうですかね?」
「あー、これはさ、もっと画面に――」
「あっ、待って瑛斗先輩! S.S.(エスツー)さんからメールが来てますよ。ちょっと読みますね」

 S.S.さんから連絡が来るのはこれで二回目。
 G社の野望を阻止して欲しいと言いながら、その後何も連絡がなかった。
 約一ヶ月ぶりのコンタクトか……。

「えっと、今夜G社のネオガイアについて発表で五段階ある計画のうち、第二フェイズを紹介するらしいっす。それを見て欲しいみたいですね。瑛斗先輩にも同じメールがいっているみたいなので、そのメールに書かれたURLをクリックしてください」
「わかった! ちょうどもうすぐはじまる時間だから、さっそく行こうか!」

 パソコンに送られてきたメールを開くと、確かにS.S.さんからのメールが届いていた。URLをクリックするとハピバ島から別のワールドへ移動する画面に切り替わった。



「わー、すげー!! 瑛斗先輩! ここ凄いですよ!!」

 先に行っているであろう八広の声が聞こえる。
 僕の画面も切り替わるとファンタジー世界にありそうな大陸が目の前に広がり、それを上から見下ろしていた。そう、僕たちは空を浮遊している状態だ。
 水の流れる音と優しい音楽が流れている。

「ハチピどこ?」
「なんかアバターが勝手に変わるみたいですね、ここ。多分ここに浮いている半透明の球体が全部、来場者のアバターなんだと思います」

 辺りを見渡すと、半透明の球体がワールド内に沢山ふわふわ浮いる。

「なんでだろう?」
「多分、多くの人をここに呼んでもパソコンが重くならないための配慮なんだと思います。名前や音声も強制オフになってる。だから他の人たちの話し声が聞こえないんですよ」

 僕たちは違うソフトを使って会話をしていたからこうやってやり取りは出来ているんだけどね。確かにこれだけの人がいたらパソコンが動かなくなる人も出そうだ。

 ワールドの中心には、不釣合いな無機質の建物が浮かんでいる。土台は正方形で、屋根はドーム型だ。

「何か意味のある建物なんですかね?」
「UFOみたいじゃない?」
「UFO!!  オレ、そういうの好き!!」

 八広のテンションがさらに上がる。
 しばらく建物を見ていると、そこから巨大スクリーンが現れた。

「わぁ! すげー!」

 スクリーンには現実世界の大きなステージが映し出されている。G社がよく演説しているステージだ。
 そこへG社のCEO、P.K.が登場してきた。会場内は拍手が湧き上がり、このワールドにもその音声が流れてきた。
 世界的に注目されているG社は、映像やこのワールドを見ただけでも多くメディアや視聴者が注目しているのだとわかる。

 P.K.は赤のスーツにハーフマスクで目元を隠していた。中二病みたいな出で立ちだし、本名だって明かされていない。そういった意味でもP.K.は有名でもあるんだけど。
 でも流石海外の人なだけあって、すらりとしていて格好良く見えるから、女性からもかなりの人気なんだよな~。写真集もいくつか出ているくらいだし。

 僕はS.S.さんの言うG社の野望というものが、この演説で分かるような気がしてP.K.を食い入るように見つめた。


英語:
(clapping sound)
Ladies and Gentlemen, I am the CEO of The G Company P.K. Thank you so much for attending or watching this event.
Today, I would like to announce the phase two of the Neogaia Project.

Before I continue, how does everyone feel about the real world? From now on I am going to refer to it as the “the three-dimension world” (3d world) instead of the real world.
Some might be lucky and able to have delicious food and enjoy with their family piecefully. Everyday do not have to worry about food and satisfied with what they already have. But how about the peoples that are currently suffering? Maybe they are squeezing to the small space that they are living, the things that they want to own is too expensive, the distance between their home to their family or friends is too far that they cannot meet with each other, or currently those that are even in wars with no choices.

Unfortunately, not everyone satisfied with what they have. And as a human being we have our own desire. Either is seeking for money, materials, loved ones, or even authority.
Even myself, with all the things that I own as the CEO of the G Company. I still have my own desire.
My desire is to “live” in the world that I created.

Have you ever imagined that you could live in the world that…...with the dragons flying and dancing over the sky, or islands floating to the air, or the fantastic view of the shining rainbow bridge, or people that born with wings, or a land full of beautiful flowers, or even a world full of technology like science-fiction?

Now, in here, all those will be true. You do not have to squeeze in to your small apartment, you can have your own house as big as you want, even if you are not rich. You can spend time with you loved ones regard of the distances, you can own the things that you cannot own in the real world by living in the world of Neogaia, you can have the power that you could never imagined to have in the 3d world.

In this world, everything you can imagine, then it can be realized and materialed to satisfy your desire.

The extension of the 3d world and a huge world that can satisfy the desire of the mankind. That is the world that we built and That is Neogaia Project.

Please have a look on this device. This is the brand new glasses-type wearable device. There is a sensor that will block and receive signal from your neurons and act as a processing bridge to give back you the information that you need to see and feel from this device. With this device, you won’t need your cellphone anymore. It supported real-time AR information display to only transmit additional signal to your current vision, and you can switch to VR mode anytime you want to have your full dive experience. You do not need any heavy headset or a high-end computer anymore to use the device.

Freely switch to any place, and That is NEOGAIA!

Even you can not move freely because of any disabilities, diseases, or even with eye problem, you will be able to be free from it and That is NEOGAIA.

The new definition of freedom. What we are trying to achieve here is through this device to give you the satisfaction that you want, there will be no wars and no need to have wars anymore. Everyone will be satisfied and NEOGAIA will be your “UTOPIA”

YOUR IMAGINATION IS YOUR ONLY LIMITATION. Thank you for your listening
(walk away and screen off) (audience claps strongly)
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――私はG社のCEOのP.K.です。
 今日は我々が開発しているネオガイアの第二フェイズの発表をさせていただきます。

 さて、その前に、皆さんは最近、どのように過ごしていましたか?
 きっと楽しい時間を過ごされていたかと思います。

 この世界は素晴らしいですよね。
 美しい大地に笑顔溢れる人々。

 あなたもきっと幸せを感じているのではないでしょうか。
 美味しい食事をして、楽しい友人や家族に囲まれて過ごし、温かく柔らかな布団で眠る。

 我々はとても恵まれた環境にいます。

 ですが、少し否定的に思った方もいらっしゃるのではないでしょうか?

 そうですよね。
 我々人類は私利私欲の塊でもあります。
 たとえ恵まれた環境にいたとしても、少なからず不満は生まれ、欲だって芽生えます。

 では、今、あなたが欲しいものは何でしょうか?

 お金ですか?
 愛ですか?
 物でしょうか?
 それとも地位や権力?

 もしかしたら小さな幸せでもいい。という謙虚な方もいらっしゃると思います。

 それでも少なからず何かを得たいという欲望は誰にでもあるのです。

 では、少し思い浮かべてみてください。
 あなたが欲しいもの……お金、愛、物、地位、権力……。
 思い浮かべたものが手に入った時のことを……。

 あなたは今、とても幸福な気持ちでいることでしょう。

 この欲望は私にもあります。
 自分で作り上げた世界に住みたいという欲望です。

 きっとあなたも想像したことがありますよね?
 映画やドラマ、アニメのような世界を頭の中で作り出したことが。

 空高く舞う竜。
 天空に浮かぶ島。
 輝く虹色の橋。
 翼の生えた人々。
 美しい花々が咲き乱れる大地。

 それともスチームパンクのような世界でしょうか?
 はたまたSF映画のような未来の世界ですか?

 もしもそんな自分が描いた世界に住めたとしたらどうでしょうか。

 狭いアパートではなく、広い庭のある家。
 それとも木の上に建てられた家?
 秘密基地のような家でもいいですね。

 私は想像しただけで、とてもわくわくします。
 あなたもきっとそうだと思います。
 これは誰にでもある欲求ですから当然です。

 そこで我々は作りました。
 人類の欲求を満たしてもなお、拡張する膨大な世界を。

 それがネオガイアです。
 
 体の不自由さも、病気の煩わしさも、見た目で苦労することもありません。

 誰でも自由になれます。
 それが可能だということは皆さんはきっとご存知ですよね?


 こちらをご覧下さい。
 メガネ型のウェアラブルデバイス『ダーウィン』です。
 常時ARで情報を見ることができるため、スマートフォンはもう必要ありません。

 また、VRモードに切り替えができて、いつでももうひとつの現実、ネオガイアにログインできます。もう大掛かりなヘッドセットやスペックの高いパソコンも不要です。

 好きなときに好きな場所で好きなことをする。
 それがネオガイア!
 理想郷はすぐ目の前にあります!

 夢に描くだけではなくネオガイアでリアルを体感してください。

 ネオガイアは、私の欲求でもあり、皆様の欲求の具現化ともいえます。
 私はあなたの欲求を満たす助けを致します。

 一人ひとりの理想郷ネオガイアは、明日の未来へと繋げます――――。



「えっ、何? 凄くないっすか? もうそこまで技術が進んでるんだ。いつでもどこでも、パソコンがなくてもネオガイアに来れたら最高ですよね! 体が不自由な人でも自由に世界を歩き回れたり、現実世界で上手くいかなくても、ネオガイアでなんだって出来る。可能性はすっごい広がります! オレ、アニメや映画だけの話で実現するのはもっと遠い未来だと思っていました!」

 演説が終わるとすぐに、八広の弾んだ声が飛んできた。

「うーん。確かに凄くいい話だと思ったよ? G社は超大手企業だし、世界的にも信頼がある。技術力もたしかだけど……」

 なんか引っかかるんだよな……。

「何が問題なんですか? だって、今いるここもネオガイアなんですよ? このお陰でオレ達は一歩踏み出せた。新しい世界はオレ達を前に進ませてくれるツールの一つですよ! VRマジ最高!! 就職先はG社に決まりだな」

 八広は盛り上がっているのに、僕はやっぱりすんなり入ってこない。

「とっても素晴らしい事を言ってるように感じるんだけど、なんだか現実世界と仮想世界がごちゃまぜになっておかしくなったりしないかな? 依存しちゃったりとか……」
「そりゃ~そういう人も出るかもしれないけど、それは今に始まったことじゃないですよね? ネット廃人なんて昔からいますし」

 僕は今いる場所からネオガイアの世界を見下ろした。

「S.S.さんから言われた『阻止して欲しい』ってこのことなんじゃない? このキラキラとした話に裏があるような気がして……」
「うーん。ってか、そもそもS.S.さんが危険分子の可能性だってありますよね? 瑛斗先輩の不安も分かりますけど、何にでもチャレンジするって決めたじゃないですか!」

 確かにS.S.さんが信用できるかどうかも分からない。
 もしかしたら僕たちを利用して悪いことをさせようとしているかもしれないわけだし。

「そう……だよね……。でも僕にとって、どちらも怪しいって感じてるから、とりあえずもっと詳しい情報を得てから判断するよ。それでいい?」
「はい! とりあえず今は何をするのか良く分からないですし、オレ達はいい配信をすることだけを考えましょう!」

 G社の野望はこの理想郷というネオガイアだということは間違いない。
 五段階ある計画。
 もしも第5フェイズまでいったら何が起きるんだろう。
 
 僕は言い知れぬ不安を感じていた。



サウンドノベル sound novel

後日追加予定!


※実際の配信はSHOWROOMでご覧いただけます。よかったらフォローお願いします!!
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