ハピバト!第004話 ハピバ島
HAPIBATO!「Episode 4 HAPIBATOU」水木瑛斗
メールに書かれていたURLをクリックし、データをダウンロードした。中にはあの有名なバーチャルワールド『ネオガイア』の実行ファイルとメモファイルがある。メモファイルを開いてみると操作手順が書かれていた。
【瑛斗(えいと)先輩、本当にやりますか?】
「うん。これはウイルスじゃなさそうだし。僕たちに何をしてほしいのか知りたいから」
【わかりました。オレ、瑛斗先輩にどこまでも付いて行きます!】
「ありがとう、八広(やひろ)」
僕たちはメモファイルの手順に従い、アカウント取得し、ヘッドセットを装着した。
「八広、じゃ、これクリックするよ?」
【はい! 俺も押します!】
「せーので、いくよ!」
――――せーのっ!!
◇
「……輩? ……先……! 瑛斗先輩っ!!」
八広が呼ぶ声が聞こえて、僕は重い瞼を押し上げた。
「ん……んん……」
眩しい……。視界が少しずつ開けてきて、青く広がる空と海が目の前に飛び込んできた。
「こ……ここは……」
「あの……瑛斗先輩ですよね?」
声がする方を見ると八広に少し似ているアバター? がいる。ここはVRWORDの中?
混乱したまま、目の前にいるアバターを見つめる。
「そうだけど……もしかして八広?」
「よかった。瑛斗先輩みたいですね。きっとここはS.S.(エスツー)さんが用意したワールドなんだと思います」
僕は放心状態のまま辺りを見渡した。ここは小さな孤島のようで、中央に黒いコンテナと四本のヤシの木が生えているのが見える。
桟橋の上に立つ僕達は、まさに漂流してきたみたいだった。
「ここがバーチャルワールドのネオガイアか……」
「瑛斗先輩、ここがネオガイアです!」
「ううっ……」
八広と顔を見合わせたあと、僕達は島に向かって思わず吠えた。
「うおおおおおおおお!!!」
良くわからないけどただ叫びたくなったんだ。もしかしたら、今ここにいるっていうことを実感したかったのかもしれない。
これが僕のアバター。
新しい体!!
「なんかよくわからないけどすげーーーー!!」
「はい!! 凄いです!! 俺たちも遂にアバターを手に入れました~~~!!」
しばらく八広と騒いだ後、ふと現実を思い出した。
アバターを手に入れたところで僕は僕で、スーパーパワーを手に入れたわけではない。
中身は何も変わっていないんだ。
「でもさ、正体不明のS.S.さんに、このアバターを使ってG社の計画を阻止してほしいって言われたけどさ、G社ってあのVRの超大手企業のG社でしょ? 僕達には無理だよ……」
ついぽろっと本音をこぼすと、八広の顔色が変わった。
「瑛斗先輩のバカーーー!!」
「うわっ!」
え? い、痛くないけど殴られた!
「瑛斗先輩! 違うでしょ! やってみなきゃ分からないって! 自分に足りないのは踏み出す勇気だって! そう言ってここに来たのは先輩じゃないですか! また弱気な瑛斗先輩に戻るんですか? 戻っちゃダメです!」
八広の言葉に自分がここに来た気持ちを思い出した。
そう……だよな……。
危なかった。
また立ち止まるところだった……。
「ごめん、八広……ありがとう。僕、G社の計画を阻止する!」
「その意気っすよ!! 内容はよくわからないけど、とにかくやりましょう!!」
やっぱり八広は凄い。僕の気持ちを簡単に盛り上げてくれる。
「でも、これから何をすればいいんですかね~……」
「指令があるとか書いてあったけど……」
「あっ! 瑛斗先輩あれ見てください!」
八広が指さす方向は、コンテナの上だった。そこにテロップのように文字が浮いていて、八広が読み上げた。
「隠された……指令を探せ?」
「っていうことは、この島のどこかにあるっていうことか。とにかく探さないことには始まらない。じゃ、まずはあの怪しいコンテナから探してみよう」
このワールドが明るい南国の雰囲気だからか、怖い感じは全くしない。僕達は軽い足取りでコンテナに入った。
そこには白い椅子が二つに大きな鏡が一つ。ただそれだけの部屋だった。
「あっ! これがオレのアバターか! 瑛斗先輩も見てください!」
八広に呼ばれて鏡の前に立った。
初めて見る自分の姿。
僕は黄色いライン、八広には赤いラインが入ったウェットスーツみたいなデザインの服を着ている。
背中にはヒラヒラした二本の羽? 触角? マフラー? よく分かんないけど変なのが付いている。
ちょっと未来っぽい衣装でかっこいい……。
自分に思わず見惚れてしまった。
「瑛斗先輩! ちょっと踊ってみて下さいよ」
「いや、なんでだよ。ははは。ってか、探すぞ」
はしゃぐ八広。
その気持ちはすっごく分かる。
本当は僕も踊りたかったけど、ちょっと先輩ぶってみた。
「ちぇ~。でも、この部屋にはなさそうですね。外行ってみますか」
「そうだね」
僕達は外に出ると、ヤシの木の根元や茂みの中、大きな流木などを探した。
「ないですね~……あっ、舟だ~~~!!」
八広が舟の周りでまたもやはしゃぎだす。
「ちょっと、遊んでないでちゃんと探せって……ん?」
遊んでる八広の直ぐ側の砂の中で何かが光った気がした。
近寄って砂をどかしてみると、ガラス瓶だと分かった。
「八広~~!! こんなのあったぁ~~!!」
ガラス瓶を掲げ、八広を呼ぶ。
「あっ!! それってまさか!!」
そう、そのまさかだった。
だって中に紙が入っていたから。
僕はその紙を取り出し、メッセージを読み上げた。
「指令その一。VTuberになれ……? これが指令?」
「そうみたいですね……」
「う~ん……Vtuberにはなってみたいけど、僕、そんな技術ないし……」
「もう~! 大丈夫ですよ! そのためにS.S.さんがこのアバターをくれたんじゃないですか!」
「そっか……」
「やりましょうよ!!」
VTuberになることは不安が大きい。
だって未知の世界だったから。
だけど、僕よりもVRの世界を知ってる八広が背中を押してくれるし、今は応援してくれるリスナーさんだっている。
僕は前みたいに一人じゃない。
「よし! VTuberになろう!!」
「それでこそ瑛斗先輩です! さっそく明日の配信はこのアバターで配信しましょう!!」
そうだ。
怖くても不安でもまずはやってみよう!
行こう、未知の世界へ!!
サウンドノベル sound novel
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