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第015話 バトルフィールド

 ネオガイアの中にはG社の支社がある。ワールド名はセントラル。そこに浮かぶドーム型の無機質な建物では、ネオガイアのシステムを管理している。

 私はフィリップとアキトと暮らすネオガイア内にある家からダーウィンを操作し、G社のシステム管理部門の部屋に転移する。

「おはようございます、サキさん」
「おはよう」

 すでに出勤している技術者達が私に視線を向けた。

「今日のバグも多いわね……」

 緩やかな弧をを描く壁には、数十個のワールドが表示されている。
 ユーザーから報告が入ったり、検知システムが作動すると、問題があるワールドが自動的に壁に表示されるのだ。

―― ビー、ビー、ビー。

「またバグ? 次は……バトルフィールドね」

 いつの時代もこういった手合いのものは喜ばれる。剣や弓で戦うバトルフィールドは、参加するのも観戦するのも楽しいようだ。

「対人戦のカウントシステムがダウンしているみたいですね。私が直接行って確認してきます」

 技術者の一人がプログラムを確認してそう告げた。
 現実世界でプログラムを打ち込むより、ネオガイア内で行う方が早くて確実な場合もある。それはバグを直接壊しに行くことも出来るからだ。今回も何かバグが紛れてきたのだろう。

「いえ、私が行くわ。私が作ったワールドだし、丁度アップデートも行いたいと思っていたから。現在ワールドインしているユーザーの退去をお願い」
「わかりました」

 壁に掛かる白い剣を取ると、腰ベルトに差した。バグの排除は銃の方が安全で簡単なのだが、私は昔ながらの武器が好きなのだ。

「それじゃ、転移します」

 一言伝え、ダーウィンを使用してバトルフィールドへ転移した。
 


 ◇

 明るい森の中に転移した私は、目の前の何もない空間に二本指を添え、一筆書きのように指を動かす。すると電子メニューが開かれた。魔法の杖を振るような動作は、隠しコマンドになっている。
 プログラムを打ち込み、ドロピーに似た白いドローンを呼び出した。このドローンは、バグを検知してくれる。

 白ドローンは高く飛び、緑色の光線を出して全体をスキャンする。しばらく待つと、一筋の光で特定の位置を指示した。

「まぁ、そこでしょうね」

 カウントシステムがダウンしていると言うのだから、観戦場にある木製の得点掲示板を指すのは予想していた。鞘に納まっていた剣を抜いてそちらへ向かう。森の中にある小さな広場には、観戦モニタと得点掲示板が置いてある。私が掲示板の近くに到着すると、白ドローンが赤い光線を掲示板に向けて発射した。するとバレーボール大の黒い球体に小さな球体がいくつもくっついたバグが数十体、飛び出してきた。

「またD951型ね」

 最近よく出てくるバグだ。明日の全体のアップデートで一掃される型である。
 素早く剣を振るうとD951型は脆くボロボロと崩れ落ちた。あっという間にバグの処理を終えると、もう一度電子メニューを表示させる。

 バグが全て消えているのを確認し、新しいデータのインストールを開始した。一対一の対人戦のこのワールドに、新たに二対二の対人戦を追加することにしたのだ。

 それは、ドロピが選んだ二人の強さを見極めるためのアップデートだった。

「ハピバスーツの意味も教えるべきかしらね……」

 処理ゲージをを見つめながら、私は小さく呟いた。


 ◇

 8月26日は、八広の誕生日。その前日は、とある場所を借りて、ファンの子たちとお祝いをすることに僕は決めた。

 お祝いの動画を作ろう!

 ウェディングムービークリエイターとして、それは直ぐに決めたことだった。

 有名なSNSに似せたHapitterというのを作ったら面白いかもしれない。検索サイトで検索するシーンから始まり、SNSに寄せられたファンの子やお友達などのお祝いメッセージをスクロールして見ていく……。

 うん、いいかも!

 僕はさっそく作業に取り掛かった。そのまま使用することは出来ないから、文字やアイコンなど細かく変えて作る。

「やばい、めっちゃいい!! 早く見せたくなってきた。でも次は音楽か……。Happybirthdayという曲は著作権フリーらしい。んー、色々あって悩むな~。あ、これ……ははは」

 そこで見つけたのが下手くそなリコーダーの演奏だった。面白さもあったけど、僕の気恥ずかしさを消してくれる気がしてそれに決めた。

 動画作りは本当に楽しくて、毎日がとても充実していた。ファンの子からのメッセージやイラストをもらったり、色々なVtuberさんと連絡を取りながら動画をもらったり、皆からの愛を沢山貰っている感じがしたからかもしれない。

 誕生日会当日は、凄く楽しすぎてあっという間に終わってしまった。
 八広も実際に聞いたわけじゃないけど、喜んでくれたと思う。
 S.S.さんから貰った新曲のお披露目も出来たし、作ったお祝い動画も見せることが出来て大満足に終わった。

 だけど、やっぱりやってしまった!! そういうところだぞ、瑛斗!!

 なんと、ファンの子からもらっていたお祝いメッセージが数名抜けていたことが、終わってから発覚したのだ。きっと楽しみにしていたと思うのに、本当に申し訳ない。申し訳なさ過ぎて泣きそうだ。
 めちゃくちゃ謝り、もう一度メッセージを貰う。急いで作り直して、ハチピに渡した。

 はぁー……。

 まぁ、いつまでも落ち込んではいられないよね。失敗は成功のもと! 次に活かせばいいよね。それも数日たった今となってはいい思い出に変わり、またいつもと同じ日常が戻った。

 そんなある日。

「あっ、またS.S.さんからメールだ」
【今度はなんだろう】


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エピト様
ハチピ様

S.S.です。

贈り物の楽曲はいかがでしたでしょうか。

次はこちらのワールドに二人で行ってください。
バトルフィールドです。
d;afslkajfsoiejfagsdvnm;wke

ドロピから渡された武器を使用してください。
あなた方のアバターはバトルスーツになっており、戦闘に優れております。

エピト様のダイヤ型の羽は防御特化型。
武器は弓矢を使用してください。

ハチピ様の三角の羽は攻撃特化型。
武器は剣を使用してください。


それでは、良い成績を期待しております。
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「バトルフィールド? なんで? ってか俺たちのアバターってそんな意味があったんだ……」
【やっぱり何かと戦わせようとしているんですね。VTuberと全然関係ない気がするんですが、きっと何か意図があるんでしょうね……】

 八広ならテンションがガツンと上がりそうな内容なのに、ちょっと不安気な声が返ってきた。

「どうする? 行く?」
【……今検索してみましたが、このバトルフィールドはオープンワールドなので、一般にも開放されていますね。ここで遊ぶ分には何も問題ないとは思います】
「ってことは、力試しとか練習とかそういう意味合いなのかな?」
【それは分かりませんけど、可能性はありますね。ハピバ島のあの練習では使い方は分かっても、実際の戦い方はわかりませんし】
「うーん……」

 二人とも黙り込んでしまった。

【……先輩。S.S.さんには何だかんだお世話になっているし、指示に従ってみませんか?】

 重い口を開いた八広からは、挑戦するという言葉だった。

「八広がそう言うなら僕は構わないけど……」
【やった~!! いや~、実はあの武器で遊んでみたかったんすよね! わ~、楽しみだな~! 俺が攻撃属性か~! 二刀流とかでもいいのかな?】
「え? え? さっきの不安そうな声、何だったん?」
【あんまりワクワクし過ぎて、どういうテンションでいっていいか分からなかったんですよ】

 あははと笑う八広に、緊張感が一気に解けた。

「ほんと、そういうのやめて? なんかヤバイのかなって思うじゃん?」
【すみません、先輩。で、いつ行きますか?】

 ということで、僕たちは数日後の夜にS.S.さん指定のバトルフィールドに向かったのだが……。



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