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都市OSと会津若松:読書記録


『Smart City 5.0 地方創生を加速する都市 OS』完読。スマートシティや地方創生に関わる人たちにとって、非常に役に立つ実践的な知恵がたくさん含まれている書籍。地方創生に関わる人や都市開発を進める企業、地方に住む人に一読を勧めたい。

地方創生やスマートシティ周りでは トップダウンとボトムアップの両方が模索されてきた。ただ、どちらも実はうまくいっていないように見受けられる。多くの場合、持続性に欠けるからだ。トップダウンだけでは街が盛り上がらず、コミュニティができず、ゴーストタウン化する。ボトムアップのみでもうまくいかない。想いのある人がゴリ押して始まったとしても、資金が足りない、想いのある人がいなくなるなどで、途中で頓挫してしまうからだ。デンマークをはじめとした欧州では、中庸を取ったハイブリッドのカタチがうまくいっていて、それが今回知った会津若松との共通点が多々あるようなのだ。これは、以前、Momentでコモンズと呼ばれていることを紹介したことがある

会津若松市はプロジェクトを実行して約8年目。もちろんその間には紆余曲折あったのだろうけれども、細かい重要な点が非常に精緻に作りこまれていることが、行間からも伝わってくる。たとえば特定メーカーに依存しないHUMSネットワークを構築する、 住民の行動変容をもたらすための仕組みを重視する、当事者としての住民の参画、関連各所を巻き込む、主体的に動く(仕組みを張り巡らす)などである。これらは、以前よりリビングラボの鍵」として言及している点と類似している。それに加えて、会津若松では「既存組織が既得権益を手放してアンバンドルし、イノベーションによって サービス本位のコラボレーションとリバンドルが実現した時にこそ(スマートシティが)成就すると考えられる(p122)」と述べているが、これができてしまったことがとにかくすごい。

私は、会津若松には行ったことがない。歴史の書籍で習ったこの場所にはちょっとした城下町的古き良き江戸時代のイメージはあったものの、今回本書を読んだことで、新しいイメージが形作られたように思う。会津若松に住み、行政サービスを使ってみたい、マイポータルを使ってみたい、観光の情報サービスデジタルDMOを使ってみたいと思わされた。2000年から進められている日本の電子政府戦略が遅々として進んでいない(少なくとも電子化の恩恵は全くといいほど感じない)一方で、日本の地で成功事例が出てくることは、励みになる。日本で電子化が進まないのは「日本(人)の独自性」が障害となっているのではないといえるからだ。

私は、居住地であるデンマークにおいては、電子政府の進展や医療の電子化、金融の電子化が進んでいて、確実に毎日の生活が便利になっているし、ストレスが軽減されている。会津若松で達成され、またされつつあるサービスとして紹介されているものを、既にデンマークの人たちは享受しているわけだ。一方で、先端的な「スマートシティ」でしか体験できないようなサービスやよく練られた産官学民の枠組みが会津若松で進展していたりもする。先進と言われるデンマークやオランダが学べることが、会津若松にあるように思えた。

今、私が会津若松に移住することは直近では現実的ではないけれども、少なくともいくつかやってみようと思ったことがある。
1 「八重の桜」を見る
2 観光サービスデジタル DMOを使って、観光予定を立てて、実際に訪問する

以降、気になった箇所を抜粋

地域の情報は地域の方や観光関係者が詳しいのは事実だが、外国人観光客が好んでいるコンテンツとは必ずしも一致しないということだ。招待したインフルエンサーには自由に行動してもらったのだが彼らはいわゆる有名観光地に行かなかったのである。(p77)

このメディコンバレーは支えるのがデンマーク人とスウェーデン人の医療データを収集蓄積した医療情報のオープンデータである。デンマークとスウェーデンでは、出生直後にマイナンバーを付与 DNAを採取し生涯にわたって医療データを一元的に管理する。ヘルスケアデータとしてデンマーク人とスウェーデン人の生後の全医学的データを収集すると同時に、副作用情報なども蓄積している。その医療データを試験などで活用しやすいように規制緩和した上でメディコンバレーオンライン MVOという Web サイトを通じて情報交換している。そこではメディコンバレーアライアンスに参加する企業の情報や開発パイプライン情報なども公開されている。国民はこうした医療データを提供することと引き換えに医療費が一生無償になる。さらにデータを活用した様々な健康サービスを享受することもできる。(p92)

エネルギー関連サービスから開始したのには理由がある。パーソナルデータほどセンシティブではなく電気代が下がるという経済的なインパクトが提供できるからだ。省エネという社会課題にも貢献でき、電力産業会は需要予測情報を提供できる、まさに三方よしのモデルである。(p101)

海外を含むスマートシティ事例の多くは、GAFAに代表されるようなプラットフォーム企業が使用するモデル、あるいは新たな街を作るディベロッパーが主導するモデルが主流だ。しかし会津若松市のモデルはそのどちらでもない。地方都市がデジタルシフトを推進し市民に支持されるスマートシティを実現させるにはそこに住む市民が何を大切にし何を求めているのかを尊重し、地域における産官学民連携の体制を組んで推進していることが不可欠である。(p102)

地方は都市部と比べインフラ整備に遅れを取っている。その分、組織の既得権益は都市部ほど大きくないため変化に対応しやすい状況にある。つまり遅れていることがむしろ地方のアドバンテージになるのだ。(p113)

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