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娘の結婚まで 褒められた気がしない

我ながら渾身の食卓を整えたつもりだ。

松茸ご飯
なめこ汁
花わさび漬け
茄子とチチタケ炒め
ゼンマイ煮付け
ネマガリタケのメンマ
ワラビのお浸し
松茸茶碗蒸し
天ぷら4種 (タラの芽 コシアブラ ネマガリタケ 独活の新芽)

買ったものは、ぜんまいの煮つけに入れた糸こんにゃくと人参だけである。肉っ気魚っ気皆無。良いのだろうかと思っても、娘が言ったとおりにしたのだ。で、食事が始まった。

私はこの件以来ずっと食欲がなく、夫の天ぷら皿に、自分もふたつみっつつまもうと少し多めに盛り付けたが、給仕や話をしている間に、夫が全部食べてしまっていた(-_-;)。

娘は

「うんうん、美味しい美味しい」
と、いちいち反応してうるさい。
夫はいちいち彼に向き合い、言う。
「ウチの天ぷらは世界一」
娘も
「同意」

そんなこと言われたら、嫌でも美味しいと言わねばならないであろう彼が気の毒であった。
「実は昨夜、会社の上司にご馳走になったんですが・・・」

なんでも、上司の奢りだったので美味しいと言わざるを得なかったそうだが、天ぷらが酷い代物で
「スーパーのお総菜の天ぷら」
のように、コロモもったり、ジクジク油切れ悪く、上司がそれを嫌って
「海老、食べない?」
彼は
「何しろ上司の奢りだったので」

いただきます・・・。

「自分が要らないものを人にやるとはけしからん」
と私が憤慨すると、
「この天ぷら美味しいです」
と言われ、褒められ慣れていないので「いえ・・あのその・・誰が揚げても同じですよ」
と声が小さくなる。

娘は茶わん蒸しに手を伸ばし、夫は
「ウチの茶碗蒸しも世界一」
と、いちいち言うのだが、彼はじっくり味わうように一つ一つモグモグと食べている。
ウチは勢い込んで早飯になるのが常で、満腹感を得る前に食べ過ぎてしまい私もそれで太った。
娘の彼はどこも太っていず、むしろスリムで娘の方がイキオイがある。
「なるほど・・・ これからは良く噛んで味わって食べよう」
と反省する。

茶碗蒸しを食べた娘が
「美味しいじゃん」
と言う。
「何を今更」

茶碗蒸しは来るたびに作っているが、実のところ私は茶碗蒸し嫌いで、作るようになったのは今の夫と一緒になってからである。

「前は、ㇲが入ったりしてたけど上手になったじゃん」
「ㇲなんか入ったことないです」
夫も
「うん、茶わん蒸しはいつもうまいよ」
と言ってくれるのだが、
「なんか酷いの食べた記憶が・・・」

断じて私ではないぞ!! と喚きたいが、ガサツな私が火加減に失敗したこともあるはずで、抗弁する自信もない。

食後に手作りプリンを出したが、またまた夫が
「そこらで売ってるのなんか比較にならない美味さ」
と言う。

娘はまた
「プリンもうまくなったじゃん、前は固いとかばらつきがあったよね」
夫は変に褒めちぎり、娘は娘で褒める気はなく、落としては少し持ち上げる程度で、作る方としたら
「いいから黙って食べなさい」
に尽きるのだ。

で、彼は
「手作りプリン初めて食べます、美味しいです」
と、どうもなんだか、私含めた人たちとはベクトルが違う気がする。
あれやこれやと話が飛び、何を話したか覚えていない。
彼は娘の上司でもあるので
「会社では何かご迷惑かけてないですか?」
と、親として聞いた気もするが、娘が彼に代わって
「ちゃんと働いてます、死ぬほど忙しく働いてます」
と娘は娘でおかしくなっていた。

聞きたいことはいろいろあった気もするが、初対面で面食らっているであろう人に、あまり多くも聞けない。というか、核心部分は私が聞いていないところで夫が聞いてしまい、私はどことなく居場所がないのだった。

「娘には女らしいことや、嗜みを教えもせずに来たのですが、食いしん坊なのでご飯だけは作る子です。何か召し上がったことあります?」

彼はまた背筋を伸ばして
「はい、いただきました。美味しいですいつも」

ホントかいなと思ったら、娘がスマホを取り出し、
「ホラ、この間の朝はコレ」
オシャレに盛り付けたフレンチトースト他である。


フレンチトースト

「それからこれも」

丸鶏が美味しそうにローストしてあるのと、娘の得意なレモンクリームパスタの写真。

レモンクリームパスタ

「こんなご馳走いつも食べてるの?」

「ハンバーグなんて普通でしょ」

娘のハンバーグ

更に画面をスクロールし
「あと、これはオレンジソース煮込み」

鶏と野菜の煮込みだが、
「オレンジソースって何よ、なんかオシャレじゃないの」
「そうだよ、味付けには砂糖の代わりにマーマレード使って」
と鼻を膨らませている。

どれもこれも
「ご馳走」
である。
朝 だの クリスマス だの。
母親としてはそこから連想されることを飲み込みつつ、
「食べてくれる人が出来てよかった」
とそこは素直に思うのであった。

それにしても
「オレンジソース煮込み」
の時のドヤ顔は忘れられない。
「トマト煮でいいじゃん」
と、いつもワンパターンな自分が悔しくもあるのだった(;'∀')。

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