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娘の結婚まで 大乱れする母 

写真は庭の「ヒトリシズカ」 沢山咲いて「賑やか( ´艸`)」


結局眠りは浅く、夫とともにドロドロの朝を迎えた。

私たちはもともと、前もって計画を立ててどうのこうののタイプではない。綿密ち密に行動はするが、行き当たりばったりも多い。
計画倒れとか、計画に縛られ過ぎて身動きが取れないのが窮屈で嫌なのである。

しかし、今回は相手があることだ。

娘も息子もいつも急なくせに、酷い話である。なんで今回に限って一週間も前に連絡を寄こすのか。気になって仕方がないではないか。
私は突然飛んできたボールを受けるのは得意なのだが、今か今かと焦らされて飛んでくるものは苦手なのである。
その間の想像、妄想、あれやこれやの段取りが面倒なのだ。

山菜にしても、早めに確保すればいいというものではない。かといって、適期にあたるかどうかもわからぬのだ。その前に気持ちが動揺しているので、身も心も重いのである。


まさかこんな日が来るとは。


それに尽きる。
私は人と違う変わった母親で、普通の親が心配するようなことは全くしないで来た。息子が結婚したい相手を連れて来た時も、結婚した時も、現在に至るまでもニコニコと嬉しいのであるが、夫はそういう私を
「普通逆だぜ」
といつも言う。
「そんなこと言われても、こうなってみて初めて分かる感情というものがあるのよ」

だから、私は自分の動揺に驚いてしまってもいるのだ。なんだろう、この衝撃は。
「なんかとっても悲しそうだ」

ああ・・・そうなのかもしれない。寂しいのだ。上の子と下の子では、節目節目で全く感情が違うものだ。
上の場合は
「よしよし、よくここまで大きくなった」
なのに、下は
「もう大きくなってしまったのか、もう少しゆっくりでもいいのに」

とっとと自立しておくれ、と思いながらも、いざそうなると下の子はどうにも寂しい。手持ちの大事な駒がなくなった大将の気分と言おうか。

しかしそれは親の勝手な気持ちでしかないのだが、私はそれをただ持て余しオロオロしていた。
夫は娘と血のつながりはないが、娘には恩義すら感じている人である。娘がいなければ、娘の一言がなければ、私たちは結婚などすることはなかったのだ。

「俺は父親でも何でもないけど、父親のような気持ちだ。Мちゃんには幸せになってほしいんだ」

有難く思うが、夫を巻き込んでの何日かを過ごすことになったのが申し訳ない。せっかくの連休なのに。

私たちは普段しない場所の掃除をしたり、そんなことばかり繰り返していた。

私は嫁のYちゃんに電話をした。
「今ちょっと話せるかな?」

事の次第を言うと驚きながら笑っている。私のオロオロがおかしいようなのだ。
「R(息子)はそろそろ帰ってると思うので、電話してみたらどうですか」

そのようにした。
息子は
「はい」
といつも通りである。

「あの・・さ、ちょっと聞きたいんだけど」
「何」
「実はさ、Мが今度付き合ってる人を連れてくるというのよ」
「あっそう」
「アンタ、会ったことあるの?」
「あるよ」
「どんな人?」

息子は笑いながら

「今度会うんだろう、いいじゃんその時わかるんだから」
「やっぱりアンタはそういう返事なのね」

子供たちはヘンに口が堅いところがある。妹の個人情報をベラベラ喋る兄ではないが、やはりそうであった。

「そうはいってもさ、いきなりで、私動揺してるのよ、ある程度の情報が欲しいわけよ」
「あー」
「アンタ会ったとき何話したの?」
「何って普通に」
「普通って何よ」
「普通は普通」
「父親は」
「普通」

まったくもって要領を得ず、役に立たない。私は諦めて電話を切った。


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