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三つ葉のクローバー#2

僕らは占い師のおばちゃんの、
「お昼までに内見を済ませて戻ってきてくれたら、すぐに手配できる」

という言葉を受けていったん大学から出た。

三月の京都は思ったよりもかなり寒かった。入学式のために買ったスーツの上から、萌黄色の春物コートを着たのではとてもまに合わない。ただ、肌寒さを全身で感じつつも、これからの新生活への高揚で足取りは軽かった。

ひとつめの物件は、琵琶湖疏水に沿って建つこぢんまりとしたアパートである。アパートといっても、2階建ての小さな家をふたつくっつけたような外観をしている。外装は学生を意識したのか、黒と白のモノトーンになっていて一見するとお洒落に見えなくもない。

アパートの前には川のような疏水が流れていて、その反対側の奥には私鉄の線路が走っていた。それを見た母は、ここは冬は寒くなるだろうし、電車の音もうるさいという理由でやめておくほうがいいと言った。僕もその通りだと思った。いちおう中を見たあと、隣に住む大家さんに鍵を返して次へ向かった。

ふたつめの物件は警察学校の近くの、これまた先ほどと似たような構造のアパートだった。さっきと違うのは、住宅街の中程にある、観光バス用の大きな駐車場の隣に建っていることである。

建物の周辺にはあまり人通りがなく、閑静なところであった。アパートの前に小さな駐輪スペースがあり、その横にある壁には黒ずんだ金属のプレートがかかっていた。近くに寄ってみると「コーポクローバー」と書かれてあった。

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