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それはY染色体の職務放棄のせいだと竹内久美子は言っていた。

以下は11/30に発売された週刊新潮の掉尾を飾る高山正之の連載コラムからである。
本論文も彼が戦後の世界で唯一無二のジャーナリストであることを証明している。

Y染色体を欺け
キャディさんが「180ヤード打てばあのバンカーを越えます」と言った。 
頷いて余裕で打ったらきっちり入ってしまった。 
歳をとると飛ばなくなる。
面白くもなくなる。 
で、同年代の仲間に「傘寿越えだし、老人ティーから」を提案した。 
30ヤードくらい前になるたけだが、第2打はグリーンが狙える。
昔と同じ感じで、途端にプレーは面白くなった。
100切りなんて当たり前になった。 
ただ歳は別の衰えも呼ぶ。
ゴルフのあと腰が痛みだした。
按摩揉み療治もだめで鍼も効かない。 
赤坂の病院の整形で診てもらったらX線を撮って「何ともない」。
そんなわけないだろう。 
鎮痛剤は出させたが、腎機能が低下しているからとかでロキソニンはだめ。
効かない薬が処方された。
因みにクレアチニンの数値が悪い人がロキソニンを続けると透析が待っている。 
結局、別の病院で腰椎のズレが神経束を刺激していたことが分かった。 
ブロック注射で少しは改善したが、今どきは老人が少々痛がっても、先が短い患者はろくに相手にもしてくれない。 
それどころか老人だともっと試練を課される。 
実はその前に右折違反で捕まった。
右折の矢印が「もう赤だった」と女警官が金切り声で言う。 
泣く子と婦警には勝てない。
免許証を差し出すと生年月日を見てにやり笑った。
「信号無視の老人」は今や抹殺すべき社会の敵。
それを検挙できた喜びがその笑みに窺えた。 
罰金の切符が切られたが、それだけじゃない。
餃洲で認知症テストを受け、さらに指定教習所で実車試験も課せられる。 
認知症テストは16枚の絵を暗記する後期高齢者の免許更新時と同じだが、信号無視の「抹殺すべき老人」には厳しい。 
正答率が低いとその場で即免許剥奪と聞いた。 
次の実車試験も同じ。
ミスをさせて免許剥奪に導こうとする。 
体験で言うと教習所のコースでクランクとか縁石乗り上げとか技量を試す。 
最後に指導教官が「23番の角を左折」という。 
角ごとの番号板に目を走らせる。
結構あせる。 
指定の番号を見つけてほっとしつつ一時停止して左折しようとしたとき、ふと見上げたら目の前に信号機があった。
しかも赤だった。 
危うく信号無視するところだった。
見事な引っかけに見えた。
これで免許剥奪がうんと近づく。 
加齢は老人から飛距離も機敏さも奪っていく。 
それはY染色体の職務放棄のせいだと竹内久美子は言っていた。 
男にも乳首がある。
ヒトは元々みな女だが、Y染色体を持つと妊娠8週目ごろから男の証のホルモン、テストステロンが放出されて男の体つきになる。 
ホルモンは脳中枢にも「お前は男だ」と働きかけ、脳は「オレは男だ」と言いながら生まれてくる。 
完全な女の体を無理に男に変えた。
その理由を男は懸命に堪えて生きていく。 
Y染色体はその間、テストステロンを出し続けて男を走らせ、最大の目的の生殖をさせる。
次世代が誕生し成長したとき、男の役割は終わる。 
途端にY染色体はサボり出す。
コレステロールや内臓脂肪や呆けの元のアミロイドを除去しなくなる。 
ために男はいぎたなく太り、呆け、心筋梗塞を起こしやすくなる。      
生(き)のままの女が長生きすするのに対して男は人生の過労に加え、Y染色体の裏切りで早死にする。 
引導を渡すのが尻を叩いてきたY染色体というところが何とも皮肉だ。 
川崎医科大の永井敦病院長が、用済み中高年男性が「前立腺癌を予防し心筋梗塞や脳卒中も抑えるにはセックスがいい。それも週2回以上」と朝日新聞に書いていた。 
そうすればズル休み中のY染色体が再び機能し始めコレステロールも抑え、老人は十分に若返る。 
理論的には合うけれど週2回はきつすぎないか。
腹上死も悪くはないか。

 

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