34.Yちゃんとコロッケ

 Yちゃんとのたくさんの思い出の中で、一番印象的なのは…

コロッケの思い出。

いつも学校から帰る時はYちゃんと一緒。
学校の最寄りの駅から、二両しかない電車に乗って2駅目で降りる。
駅の北口に出るとバスのロータリーがあり、その駅から確かYちゃんは17:18のバスだったかな。
私はそれより少し遅い17:25のバスに乗る。

先ず、Yちゃんの方のバス停でバスを待ち、私は彼女が乗ったのを見送ってから、自分の乗るバス停に行く。

ある日Yちゃんが、
「ねぇ、お腹空かない?」
と言った。
言われるとお腹空いてる事に気づいた。

お腹空いたね。

「美味しいコロッケが売ってるお店があるの。
コロッケ食べない⁇
すっごく!美味しいの!!」

私が返事をしないうちに、Yちゃんが走り出した。

私はお小遣いをもらっていない。
でも、何かあった時のためにと母が毎日100円くれていた。
何もなければ使わないので、私の小さな黒い布のお財布には、パンパンに100円玉が入っている。
お買い物をするときは、必ず母に断らなければならない。
でも、今母に電話している暇もない。

どうしよう。
こんなことしたらママに怒られる。
しかも、今コロッケ買うって…道端で食べるんだよね…
お皿に乗ってるのしか食べたことないけど…
手で食べるんだろうか…
そうだよねぇ…
そんなことを知られたら、ママはきっと怒る。
Yちゃんのママは怒らないのかなぁ。

そんなことを考えながら、Yちゃんに手を引かれ走った。
「ここだよ!
ここのコロッケ、すっごく美味しいんだから!!
絶対好きになるよ。」

そこは駅の商店街のお肉屋さんだった。
店先に揚げたてのコロッケが売っていて、コロッケの匂いが空腹感を加速させる。
店先のおばちゃんが、ニコニコして私たちを見ている。

「コロッケ二つください!!」

Yちゃんはすでに買おうとしている。

ねぇ、Yちゃん
お母さんに言わなくていいの?

私はYちゃんに聞いた。

「大丈夫だよ。
そめはお母さんに聞かなきゃいけないの?
私はいつも買ってるから大丈夫。
言わなきゃいいじゃん。」

言わなきゃいいってさぁ^^;
そういうわけにもいかないでしょ〜…

Yちゃんはお買い物に慣れているようだった。
私は、自分でお買い物はほとんどしたことがない。

やっぱりYちゃんって大人だなぁ…

おばちゃんの手に100円玉を乗せた。
お肉屋のおばちゃんは、お釣りの70円、そして白い紙袋にコロッケを入れて、私たちに温かいコロッケを手渡してくれた。

母に断らず、自分の意思で(?)初めて買ったコロッケ。

怒られてもいいや!

と、思った。

コロッケを買うと、またYちゃんに連れられて、駅の出入り口の階段付近にある小さな空き地のような場所で、ランドセルを背負ったまま、まだあったかいコロッケを食べた。
衣がサックサクで、中がホックホク。
少し冷たくなった風が頬をすり抜けていく秋から冬に代わる予感がし始めたこの季節、温かいコロッケが私たちを包み込む。

美味しいね!!

「そうなの!!
ここのコロッケ、美味しいでしょ⁉︎
二つ買えばよかったなぁ!」

Yちゃんは目を輝かせて嬉しそうに言う。

また私の初体験、そして冒険。
その日の夜、母にコロッケの話をした。
怒られると思ったけど、母は私の話をニコニコして聞いてくれた。

「Yちゃんに連れていってもらってよかったね。」
と、母は言った。
思いがけない言葉だった。

私たちは卒業まで、何回このコロッケを買いに行ったことだろう。
そして、いつも駅の出入り口の階段付近の小さな空き地、大きな石に座って食べた。

不思議…
あれから何十年も経つのに、一番最初に食べたあのコロッケの味、匂い、手の感触、歯触り…
思い出せる。

Yちゃんにはたくさん驚かされるし、初めて体験することも多く、私にはとても刺激的。

私は、自分の子どもが小さい時、コロッケを揚げながら、Yちゃんと食べたコロッケの味を思い出すこともあった。

それと同時に思い出すのは…

ある日の土曜日、学校帰り。
私は100円玉で重たくなった黒い布の小さなお財布を、スカートの右ポケットに入れていた。

そろそろ貯金箱に移さなきゃ

そう思っていた矢先の出来事。

小学生の短いスカートのポケットだから、とても浅い。
なぜ私はそのお財布を、ランドセルではなく、ポケットに入れたのか。

バスの座席は、運転席の後ろの数席と、反対側のひと席以外、昔は全て横座りの椅子だった。
いつもは、運転席の反対側の一番前の席に座るのに、その日は混んでいて空いていなかった。私は後ろの出口の横に座った。
右隣に小さなおじさんが座った。
近所にお買い物に来たのか〜という感じの、とてもお出かけするような服装ではない感じ。

そのおじさんは、私に妙に寄り添ってきたけれど、私は何も言えず、小さくなっていた。
そのうち眠たくなって、ちょっとうとうとしたら…
ポケットに入れていたはずのお財布がなかった。

あのおじさんにすられたんだ!

おじさんはもういなかった。
どうにもできない。
私にとっては大金。
全部100円玉で2000円分くらい入っていた。
早く貯金箱に移しておけばよかった。

スリにあったなんて、経験しなくてもよかった初体験。
母にも話さなかった。

そう言えば、誰にも言ったことがない。
今、ここで初めて告白しました。

あのおじさんには、きっと天罰がくだったことだろう…と、思いたい。

…続く……👛


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