11.私の母

 私の母は、俗に言う『教育ママ』という表現が一番合う人かもしれない。
家のお手伝いはやらなくていい、勉強を頑張りなさいと言う人。
だから私は何もできない子どもだった。
褒めることは滅多にない。
いい子でいないとめちゃくちゃ叱られる。
叩かれる事はしょっ中。
時に蹴られたり、反抗すると敷布団を被せて叩かれる。
敷布団はとっても重い。
一度、布団が重たすぎて呼吸ができなくなったことがあった。

わたしはこのまま死ぬかもしれない

本気で思った。

いつも母は怒っているイメージ。
笑った顔はあまり思い出せない。
私は内気な子どもだったので、人前に出るなんてとんでもない!

母と一緒に野外でやる劇を観に行った時のこと。
例えば舞台や音楽などでも、お客様と一体となって…というプロジェクトを考えたりすることがある。
この野外の劇も、観にきてくれてる子どもたちを巻き込んで、一緒に楽しんでもらおうという企画だったのだと思う。

野外ステージのお兄さん、お姉さんたちが、観ている子供達に話しかけ、手を繋いで走り回る。
それがまさか、私のところに来るなんて!

私はそういうのが一番嫌い。
おとなしく見てるんだから、話しかけないでもらいたい。

お兄さんに手を引っ張られそうになったので、私は驚いて逃げた。
まさかお兄さんも逃げられるとは思っていなかったに違いない。
母が謝って、お兄さんは私以外の子供の手を引いて、その子は嬉しそうに一緒に走って行った。

よかった
ママに叱られなかった

…と思ったのも束の間、帰宅して、玄関に入ってドアを閉めた瞬間、母の怒涛のようなお説教と共に、手が飛んできた。
「どうしていつもママを泣かせるの!
どうしてママに恥をかかせるのよ!」
どんなに叩かれても、私は人前に出るのは絶対ムリ。
他のことは言うこと聞きます。
だから許してほしい。

母は、年間行事を大切にする人。
お正月、豆まき、ひな祭り、クリスマス……
私の誕生日、入学式や卒業式……必ず写真を撮ってもらった。

お正月とひな祭りは必ず、着物を着させられる。
小学3年生までは、長屋のような作りの家で、冬の廊下は寒い。
私は寒いのがとても苦手。
“冬生まれの子は冬に強い、冬が好き”
と言われたことがあるけれど、絶対そんな事はない。
寒い冬は寒いし、寒いのは本当に嫌い。

我が子を見ても、冬が好きそうには見えない。
実際に確認した事はないので、今度聞いてみよう。

 朝起きて、寒い廊下でさらに体が冷え、ストーブの前から離れられない。
これから着る洋服をストーブで温めて着る。
でもそれをやると叱られる。
「洋服を温めてから着ると体が弱くなるのよ。だからやめなさい。」
それは…都市伝説と思います。

着物を着る日は、まだ寒い日であることが多いので、冷たくなった着物を着ることになる。
私はそれが嫌だった。
着てしまえば、ウールの着物は暖かいので快適になるが、それまでの行程に耐えられない。
冷たい着物が肌に触れる瞬間、全身が凍るような感覚。

母の口癖は
「女の子らしくしなさい。」
常に言われていた。
でも、髪型は短いおかっぱ。
いつも母が裁ち鋏で私の髪を切っていた。
裁ち鋏って、髪を切る時どうしても斜めに切れてしまう。
特に私の髪は多くて太い毛だから、余計に…。
それを揃えようとして、どんどん短くなっていく。
前髪は目に入るからと、ホントに短い。
学校では、それがあるあるな話題だった。

ある日、母が
「ピアノの発表会もちかいからね、今日は床屋さんに行くよ。」
と言った。
床屋さんに行くのは顔剃りのため。
くすぐったいから、あまり好きじゃない。
でも、この日は、髪を切ってもらうと言う。

やった〜!!
床屋さんって、髪の毛のことなら何でもやってくれるって聞いた。
これ以上切られたら、もっと短くなって男の子みたいになっちゃう。
何でもしてくれるなら、そうだ!!
髪を伸ばしてもらおう!!

母に連れられて床屋さんへ行くと、緑の椅子に座らせられ、床屋のオジサンが私に聞いた。
「どういう髪型にしたいの?」

髪を伸ばしてください。
本当は魔法使いなんでしょ?

私は言った。
周りの人たちもキョトンとして私を見た。

何か変なこと言ったかな?

「髪を伸ばしたいんだね?」

はい!!

と元気よく答えた。
床屋のオジサンと母がコソコソ話をしてたから、あの時きっと母は、「切っちゃってください」とかなんとか言ったのだろう。
気づいたら、男の子みたいになってた。

その後、めちゃくちゃショートの髪で、紺のレースのワンピースを着て発表会に出たのだが、本当に嫌だったことを思い出す。


…続く……👘


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