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温泉コミュニケーション

 2023年末は、実家に帰り1週間ほど滞在することができました。
地方の温泉場は地元の暮らしや文化が見えてなかなか楽しいものです。
青森に帰ると、一人暮らしの母を連れて銭湯巡りをしました。
市内にある銭湯の多くは温泉です。小さいものからスーパー銭湯的なものなどいくつもあります。沸かしなおしで循環させているところが多いようですが、様々な泉質のお湯がある上に、サウナや露店もついていたり、かけ流しもと、とにかく”めぐる”だけあります。タオルやお風呂セットを持っていけば400円台。銭湯値段なのです。サウナの利用も無料、65歳以上はシルバー料金の場所もあり、市民の懐にはとてもやさしい値段です。400円で温泉って考えられない安さですよね・・・

銭湯の受付を通り、脱衣所に進むとそこそこ混んでいます。
ロッカーに来ているものを入れて、いざ!中へ
おおーっ!右手の壁一面がお風呂です。3つに分かれています。
手前はサウナ用の水風呂で、あとの2つが熱めとぬるめです。
両者ともにひのき風呂。木のぬくもりを感じるだけで暖かさが倍増です。

洗い場を陣取った私たちに
ひとりのおばちゃんが話しかけてきました。

「あなた、顔と声が知り合いに似ているのでびっくりしたわ」
「あら、そうなんですか?」
「世の中に自分に似た人は3人いるというけど、似てる。びっくりよ。」
「いつもここにいらっしゃってるんですか?」
「いいえ、いつもは家の近く。きょうは旦那がいたから車で・・・」
「普段はどこへ?」
洗い場でシャワーを出しながら話が弾みます。

公共のコミュニケーションを傍観していると、”自然感”が目立ちます。

声のかけ方はこうです。場所は露天風呂。
「あら、やっぱり外は寒い」と感想を声に出します。そして、
お湯に体を沈めてから、「あー、暖かい」とつぶやきます。
次は、既にお湯の中にいる方に対して、
さきほどの感想を今度は言葉にして投げかけます。
「やっぱり外は寒いですね。」

すると声をかけられた方は、
「そうですね」とつい言ってしまうというのです。

独り言の「あら、やっぱり外は寒い」は、基本的につぶやきなので、
答えを求めていません。
でも、もしあなたが目撃したら、
「寒いですよ、早くお湯へ」と声に出してしまうかもしれません。

どうしてなのでしょうか。
温泉は心も体もオープンな場所だから・・・?

「やっぱり外は寒いですね」がすでに一度耳にはいっているため、
初めてでも返答の準備ができている・・・とでもいえるでしょうか。

公共のコミュニケーションとは、求められなくても自然に声に出すことが
第一歩なのかもしれません。
”相手にボールを投げました。返球してください” ではなく、
たいてい何かを返すもの、自然に返ってくるものなのでしょう。

このように、田舎のおばちゃまたちは聞こえてくる声に答え、
自然におしゃべりし、場が広がっていくのだと思いました。

ところで、人懐っこいのか、話したいことがたくさんあるのか、洗い場から移動しても話が止まらないことがあります。お湯の中までいっしょになり、
そのまま場が広がっていく。
すると、時間が経ち暑いな・・・と感じ始めますよね。
いつやめるか。そのタイミングはいつなのか・・・
このままだとのぼせてしまう・・・ あるあるだと思います。

ここで私は3メートルほど先の、女性たちのやりとりを目撃します。
二人の女性が何か話しています。「そうだよね」「ええ、ほんとうに」
「それでね・・・」と一人が話を続けようとした瞬間、
もう一人の女性は、「それじゃ、私はここで」と
お湯から上がったのです。
上手い・・・潔いというか、なんというか、さくっと話を切り上げていきました。残された方も「はい、どうぞ」という雰囲気で、特に大したことではないようです。これぞ、銭湯ですね。
考えてみると、重要な会議ではないのですから結論まで待つ必要はありません。適度なタイミングで切り上げてもオーケーなのだと気づきました。

さて、私は青森生まれ。おばちゃまの年齢なので銭湯コミュニケーションが主戦場です。それではと思い、トライしました。

二人のおばさまが(知り合いかどうかは不明)温泉談義をしています。
「雲谷温泉は午後からオープンだってよ。今行って確かめてきた。」
「そうなんだ。そこまで待てないからこちらの温泉に入りにきたんだ」

ほぉなるほど、わたし、その情報を詳しく知りたいぞ。

露天風呂のイメージ映像

私は、おばさまの隣に移動しました。
「雲谷温泉は営業しているんですか?」
「きょうは午後からだって。今きいてきましたから・・・」
「あそこのお湯いいですよね」
「そうそう、お湯がやわらかくて入ったとたんスキッとするんですよね」

実は私は15年ぐらい前に冷え性で悩んでいましたが、雲谷の温泉に入ってとても体調が良くなったことを思い出していました。もう一度入りたかったのですが、その後温泉は閉店したとのうわさがあり、もう存在しないのではと思っていたのです。

新たな情報を温泉コミュニケーションで手に入れた私は大満足でした。
その上、市内の温泉の種類と効能、料金、入った感想までたくさん教えてもらったのです。見知らぬ人からの情報ですが、ネット情報より正確で公平な気さえしました。

ということで、年末年始は日帰りで市内の温泉を楽しむぞと意気込み、おばちゃまたちのコミュニケーション力の高さを再認識したのでした。

本年もどうぞよろしくお願いいたします。 かきざき


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